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第701話

そうして運んでこられた会長室。ソファの上にうつ伏せで下ろされた俺は、くたぁっとそのまま座面に突っ伏した。 数秒遅れでコンコンと部屋のドアがノックされる音が響く。 「失礼します」 ガチャリ、とドアを開けて入ってきたのは、手に何やら色々と持った真鍋だった。 「クッ、早いな」 「氷水とタオル、シップ剤とケアクリームです。それとこちらは翼さんのお洋服です」 「あぁ」 次々とソファの前のローテーブルに持ってきたものを置き、真鍋がチラリと俺に視線を寄越して、ふっと笑った。 「ふぇ?」 「お先にどうぞ。お飲み下さい」 不意に目の前に差し出されたのは、スポーツドリンクのペットボトルで。 「え?」 「随分とお泣きになられていましたし、汗もおかきになっています。どうぞ、水分補給を」 ずい、とペットボトルを押し付けられ、俺は反射的にそれを受け取っていた。 「あの、ありがとうございます」 「いえ」 淡々とした無表情だけれど、その行動は優しい。 「ククッ、さすがは苦痛拷問のエキスパートだ」 ケアが手慣れている、と混ぜっ返す火宮に、真鍋の冷ややかな目が向いた。 「ふっ、お褒めに預かり光栄です」 まったくそう思っていないだろう冷淡な声で応えた真鍋が、そのまま単調な仕草でタオルを氷水で冷やし、絞って俺のお尻に乗せた。 「ひぅ…」 一瞬冷たさにビクッとなったけれど、火照ったお尻に冷たいタオルが気持ちいい。 「ですが快楽拷問も苦痛拷問もマルチに使い分ける会長には負けます」 ツンとした声で言い放たれた真鍋の言葉に、火宮がクッと喉を鳴らし、俺はゾッと青褪めた。 「ククッ、快楽拷問か。くれてやる対象は翼にくらいだがな」 「そうですね」 「で?例の手配は」 「滞りなく」 「分かった。翼、手当てが済んで落ち着いたら、帰るぞ」 「ふぇっ?はい…」 突然話を振られて、へにゃりと冷やしタオルの心地よさに弛んでいた気持ちが引き締まる。 「ククッ、身体検査も、連の件の仕置きも、家に帰ってからだ」 「うぁ、はい…」 「ふっ、じっくり覚悟を決めておくといい」 「う、はい…」 ずどーんと再び気分が落ちたところに、真鍋がひょいとタオルを裏返し、またもヒヤリと感じた冷たさに「ひゃぅっ」と変な声が漏れてしまった。 そうして腫れ上がったお尻をどれくらい冷やしてもらったか。 ケアクリームも塗ってもらい、その心地よさにとろとろと瞼が重くなってきた頃。 「翼」 「ふぁ…?」 「おい、翼」 「っ、っ…」 「ったく、リラックスし過ぎだ」 まだすべて許されているわけではないんだぞ、と苦笑している火宮の顔が、不意にドアップになって、俺はびっくりして目を見開いた。 「あ、ごめんなさい」 やばい。寝落ちるところだった。 失踪の痛いお仕置きが済んで、すっかり気が緩んでいた。 気づけば何度もタオルを取り換えてもらったお尻は、痛みが相当マシになっているし、泣き叫んだ喉も潤い、目の涙の跡もすっかり引いていた。 「クッ、もう大丈夫そうだな」 「っ…」 何が、って、分かっているけど聞きたくないけど、「次のお仕置きをしても」ってことなんだろうなぁ。 「クッ、その顔」 「っ、っ…」 どんな顔だ。って、まぁこれも聞かなくても分かるけど。 どうせ、やだなぁ、って浮かんだ思いが、そのまま顔に出たんだろう。 「ふっ、大丈夫なら、そろそろ服を着ろ」 ペロンとお尻に乗ったタオルを剥がされて、俺はピクリと身を震わせながら、そっとソファの上に起き上がった。 「あれ?真鍋さんは?」 いつの間にいなくなっていたんだろう。 ふと見回した室内に、真鍋の姿がなくなっていた。 「クッ。クリームを塗って、最後にタオルをセットした後、出て行ったじゃないか」 挨拶していただろう?と可笑しそうに言う火宮だけど、そんな記憶はどこへやら。 「寝落ちるところだった、っていうか、ちょっと本当に寝落ちてた?」 「ククッ、本当、おまえはな」 大物だ、と笑う火宮に、俺はどういう顔をすればいいか分からなくてふらりと視線を逸らす。 「まぁいい。服を着たら、出るぞ」 「っあ、はい…」 「すぐに車を回させる」 「っ……」 それは俺を地獄へと送る護送車で。 「ついでに、座ったら振動とか痛いんだろうな…」 まだ完治とは言えないお尻の、痛みを思う。 「はぁっ…」 その上家に帰ったら、今度はどんな目に遭うんだろうか。 これまでの数々のお仕置きよりも、ずっと酷い目に遭う気がする。 ドクン、ドクンとうるさく跳ねる鼓動を宥めながら、俺はノロノロとズボンと下着を取り上げて、それを裸の下半身に纏っていった。

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