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第20話
シャワーを済ませて出てきたときには、朝食がダイニングテーブルに整っていた。
ルームサービスというやつなのだろう。
綺麗に整った料理はどれも美味しそうで、実際高級ホテルに見合った満足のいく味をしていた。
唯一、サラダにパプリカが入っていたのがマイナスポイントだったが。
「本当、好き嫌いが過ぎる」
「うっ、だって…」
「まぁいい。出れるか?」
もうチェックアウトをするようで、ジャケットを羽織りながら火宮がカードキーを手に取っている。
特に荷物があるわけでもない俺は、手ぶらで火宮に続いた。
「え?」
「どうした?乗れよ」
地下エントランスに連れていかれ、火宮が我が物顔で向かった1台の車の前。
キュンキュンと音を立てて点滅したオレンジ色のランプが、鍵が開いたことを教えてくれる。
「この車、火宮さんの?」
「当たり前だろう」
そりゃそうだ。誰が他人の車のキーを持っていて、わざわざ他人の車に乗れと命じるものか。
だけど、意外だ。
目の前にあるのは、確かに高級車ではあるけれど、光沢のあるブラックの、角度によってはパープルにも見えるボディカラーの、国産SUV車なんだ。
「翼?」
「いえ。てっきり黒塗りのいかにもなセダンがお迎えに来るのかと思っていたので」
うっかり滑る俺の口は健在らしい。
はっとしたときにはもう、失礼な発言は音になった後で。
「本当、おまえはな…。どんな偏見か知らないが、ドラマや漫画の見過ぎだ。プライベートまでわざわざ部下は連れ回さん」
よかった。機嫌を損ねることはなかったようだ。
でも、そういうもの?
「だってヤクザの上の方の人って、命とか常に狙われているイメージなんですもん」
「そう四六時中狙われてたまるか。まぁ、護衛は常についているがな」
「え?」
どこ?見当たらないけど。
「おまえのようなど素人にそれと知れるような付き方をしているわけがないだろう?」
ついキョロキョロしてしまったことを揶揄われた。
確かに、そんな露骨にいるわけがないか。
「ふぅん。あ、じゃぁもしかして運転も火宮さんが?」
「他に誰がいる。いいからさっさと乗れ」
ご丁寧に助手席のドアを開けてくれた火宮に促され、俺はちょこんと車に乗り込んだ。
すぐに運転席側に回った火宮が乗り込んでくる。
「今日はお休みなんですか?」
もう10時を回る時間。
そういえば仕事は、と今更ながらに思った。
「日曜だからな」
「あ、そうなんだ…」
曜日感覚など、すでになくしていた。
「ヤクザも普通に日曜休みなんですね」
「別にもういいけどな…」
「え?」
「いや。だから、普通に正規の役員と同じだと思えばいいと言っているだろう?休日出勤や、イレギュラーが入ることはあるが、基本的に日曜は休みだ」
「ふぅん」
話しながらも、車窓の景色はどんどん移り変わっている。
どこ行くんだろ。
多分、こちらはマンションの方向ではないはず。
まぁ行き先がどこであろうとあまり興味のない俺は、まだ多少だるい身体で、ボーツと風景を眺めていた。
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