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第25話

「だから、何人前作らせる気ですか」 しかもにんじんだけってところが火宮の意地悪さを象徴している。 「2人分だ」 「明らかに多すぎますよね。わかってやってますよね。ってか、だからカレーなんですか?」 まったく、子供みたいな嫌がらせをしないで欲しい。 1本だけ残して、後のにんじんはひたすら棚に返してやる。 「いや。おまえが言ったんだろう?」 「え。何を」 「庶民の家庭料理と」 あ?そこまで戻る?っていうか、それがカレー? 「まぁ、そっか。そうなのか」 そういう認識なんだな、と思いながら、さらに好奇心が湧いた。 「ちなみに他に、家庭料理って何だと思っています?」 「他?…肉じゃが。ハンバーグ」 なるほど。代表格できたか。 火宮の口から出る単語としてはあまりに不似合いで、俺はクスクス笑ってしまいながら、ジャガイモと玉ねぎをかごの中に放り込んだ。 「あっ、そういえば、家電屋って寄るんですか?」 「家電?」 振り向いた火宮の顔は、完全な疑問顔だった。 「え。だって炊飯器、ありませんよね?え?まさか鍋で炊けって?」 出来ないことはないだろうけど、出来そうにない。 「炊飯器…。そうか」 すっかり意識の外だった様子で、火宮が首を傾げている。 本当、この人、今まで一切料理なんかしたことないんだなー、と、違いすぎる生活環境を実感する。 「明日届くように手配しておく。今日は下で炊かせて持ってこさせればいい」 あっさり言いながら、さっさと携帯でどこかに連絡を始めてしまう。 「俺様、社長様、ヤクザのトップ様…」 わざと呟いた悪口は、電話中の火宮に聞かれないこと前提だった。

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