25 / 719
第25話
「だから、何人前作らせる気ですか」
しかもにんじんだけってところが火宮の意地悪さを象徴している。
「2人分だ」
「明らかに多すぎますよね。わかってやってますよね。ってか、だからカレーなんですか?」
まったく、子供みたいな嫌がらせをしないで欲しい。
1本だけ残して、後のにんじんはひたすら棚に返してやる。
「いや。おまえが言ったんだろう?」
「え。何を」
「庶民の家庭料理と」
あ?そこまで戻る?っていうか、それがカレー?
「まぁ、そっか。そうなのか」
そういう認識なんだな、と思いながら、さらに好奇心が湧いた。
「ちなみに他に、家庭料理って何だと思っています?」
「他?…肉じゃが。ハンバーグ」
なるほど。代表格できたか。
火宮の口から出る単語としてはあまりに不似合いで、俺はクスクス笑ってしまいながら、ジャガイモと玉ねぎをかごの中に放り込んだ。
「あっ、そういえば、家電屋って寄るんですか?」
「家電?」
振り向いた火宮の顔は、完全な疑問顔だった。
「え。だって炊飯器、ありませんよね?え?まさか鍋で炊けって?」
出来ないことはないだろうけど、出来そうにない。
「炊飯器…。そうか」
すっかり意識の外だった様子で、火宮が首を傾げている。
本当、この人、今まで一切料理なんかしたことないんだなー、と、違いすぎる生活環境を実感する。
「明日届くように手配しておく。今日は下で炊かせて持ってこさせればいい」
あっさり言いながら、さっさと携帯でどこかに連絡を始めてしまう。
「俺様、社長様、ヤクザのトップ様…」
わざと呟いた悪口は、電話中の火宮に聞かれないこと前提だった。
ともだちにシェアしよう!