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第26話
「ふぅん」
え!ふぅんって、それどっち?
ダイニングテーブルの向かいで、カレーライスを一口食べた火宮を見つめてしまう。
「翼?食べないのか?」
「え、いや」
食べますよ?食べますけど、今はね。
知らなかった。
人に料理を作って食べさせることが、こんなに緊張するなんて。
自分が食べるのもそっちのけで、その反応が気になるなんて。
「うん」
二口目を口に運んで頷くだけの火宮からは、いいも悪いも伝わらない。
だからどっち!
吐き出したり、嫌な顔もしないということは、少なくとも不味くはないのだろうけれど。
美味しいとも言ってくれないことに、何だか少しがっかりする。
って俺、何期待してるんだろう…。
「翼?もしかしておまえ、カレー自体が嫌いなのか?」
「え?」
怪訝な火宮の目が向いて、俺は自分で配膳した、ちゃっかりにんじん抜きのカレーライスを見下ろした。
「いえ。そんなことないですよ」
まさか、火宮の反応が気になって食べるどころではないなんて言えない。
あわよくば、美味しいなんて言って欲しかっただなんて。
「いただきますっ!」
慌ててこんもりとスプーンに掬ったカレーは、とっても熱かった。
そしてごく普通の美味しいカレーだった。
「ん…」
黙々と進んでいたスプーンを、不意に火宮が置いた。
見れば皿の上は綺麗に真っさらだ。
「あ…。あの、おかわりします?」
「あるのか」
「あ、はい」
市販のルーの半分で作ったとはいえ、4、5皿分くらいはある。
残れば明日の朝も、なんて思っていたくらいだから、おかわりも十分だ。
「じゃぁもらおう」
ズイッと突き出された皿は、本当に米粒1つ残っていない。
足りなかったのかな。それとも…。
特に表情に変化のない火宮には、期待しないほうがいいとは分かっている。
分かっているけど、こうも綺麗に食べてくれて、おかわりまでしてくれるとなると、ついうっかり期待が浮かぶ。
「なんだ」
「いえ…」
思わずジーッと見つめてしまっていた俺は、慌てておかわりを用意した。
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