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第28話
夕食の片付けを済ませ、風呂に入ってさっぱりした。
タオルでガシガシと頭を拭きながら出てきたリビングに、火宮の姿はない。
「まだ部屋か」
シーンと静かなリビングに、俺の独り言が落ちる。
「んー、寝ちゃっていいのかな…」
入るなとは言われてないが、何となく声をかけづらい扉を見ながら考える。
勝手に先に寝るのはなんだか悪い気もする。
もしかして今日もするのかな。
できることなら何もせずに眠りたい。
だけど要求されたら断れない。
自分が何故生かされ、こうして衣食住に困らない生活をさせてもらえているのか、俺はちゃんと分かってる。
「やだとか言えないし。それに…」
昨日は正直なところ、嫌ではなかった。
ちゃんと気持ちよかったし、イッた。
男に抱かれるなんて、嫌悪しかないと思っていたけど、火宮とのそれは違った。
それだけ火宮が上手いのだろうことも、気を使って丁寧に抱いてくれたということもわかる。
「火宮さんでよかった」
本当は抱く側で、相手だって女の子で、と、初体験への憧れはもちろんあった。
だけどそのどれもが叶わない現実で、男に抱かれなければならなかったことを考えると、火宮のようなイケメンで、高級ホテルのスイートルームなんていうシチュエーションで抱いてもらえたことは素直によかったと思える。
「でも火宮さんは…?」
そもそも、なんで俺の自殺を止めたんだろう。
あんな人気のないビルの屋上にいた理由はなんなのか。
確かに俺は、どちらかと言うと顔立ちは悪くないらしいし、かつて友人たちからは、『翼ちゃん』だとか『可愛い』だとか言われていた、男に目をつけられやすい容姿をしているのは認める。
借金取りにも、ウリで稼げると思われたくらいだ。
いくらかの価値はこの顔にあるのだろう。
だけど、あの火宮だ。
ずば抜けた美貌と、抜群のステイタス。
ヤクザということを差し引いても、女が放っておかないだろうし、もし男が好きな部類だとしても、きっと抱いてくれという男だっていくらでもいそうなのに。
「それがなんで、こんな借金背負った死にかけの子供の俺?」
自分にそこまでの魅力と価値があるとは到底思えない。
「ちょっと毛色の変わったペットが欲しかったのかな。退屈してて、たまたま出会った玩具で遊びたくなっただけかな」
言葉にしていて虚しくなったが、きっと真実もそんなものだろう。
「ま、いいんだけどね。なんだって」
もうお腹を空かせることもなく、寝る場所に困ることもない安穏とした暮らし。
ペットだろうが所有物だろうが、生かしてもらえているだけで充分だ。
「俺、生き延びたよ…」
もう相手には届かない言葉がポツリと落ちる。
ゆっくりと瞼が重くなってきた。
「俺、生き…」
うつらうつらと波間を漂う思考が、ゆっくりと溶けていった。
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