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第41話

無事材料が届き、夕食の下ごしらえをしていたところに、火宮が帰宅してきた。 「あ、おかえりなさい」 「あぁ」 「あれ?真鍋さん。こんばんは」 今日は、リビングに入ってきた火宮の後ろに、真鍋の姿があった。 「翼、料理中か?」 相変わらず、隙のないダークスーツ姿が格好いい。 「まだ準備中ですけど」 「そうか。少し手を離せるか?」 「はい、大丈夫ですけど」 挽肉を捏ねているだけだし。 「じゃぁちょっとこっちに来い」 「は、い」 リビングのソファの方を示され、俺はギクリとしながら、油でベトベトの手を洗った。 「座れ」 ソファの前まで行った俺へ、火宮の端的な命令。 正座…だよな? 相変わらず能面のような無表情で何を考えているのかわからない真鍋の存在を気にしつつ、俺はソファの横の床に膝をついた。 「何のつもりだ、それは」 は?と呆れた顔を向けられ、思わず首を傾げる。 「え?だって昼間の電話のこと…」 「電話?…あぁ」 あれか、って。 勝手に切った無礼を怒られるんじゃないのだろうか。 真鍋さんだって来ているし。 「そういえば一方的に切られたんだったな」 あれ?完全に忘れてた感じ? 「墓穴掘りました?俺」 「くくっ。反省が見られるようだから許してやる」 怒ってなかったくせに。 そういうところが意地悪だ。 でも賢明にも口に出さずに、シラッと床から立ち上がってやる。 「それはどーも」 「だからおまえはな…」 クッと楽しげに喉を鳴らした火宮に対して、真鍋からはブワッと冷たい殺気が立ち上った。 「ッ!」 「真鍋」 「ですが会長…」 「構わん」 怖ッ…。 この人たちがヤクザと呼ばれる人種だったことを、ふとしたときに思い出す。 いや、火宮以外の、火宮に関係する人間に会ったとき、か。 「そう考えると火宮さんて…」 「俺がなんだ」 「あ。俺また口に?」 「しっかり出てるぞ」 あははー。怒ってはないみたいで良かったけど。 「すみません」 「いや、で?」 「あー、なんか、ヤクザってこと忘れちゃうなー、と」 また無礼だって怒られるかな。 「ククッ、本当におまえはこれだから。面白いだろう、なぁ真鍋?」 「……申し訳ありませんが理解に苦しみます」 愉悦を含んで揺れる火宮の表情と、無感情な作り物のような真鍋の顔はあまりに対照的だった。 「クックッ。そんなんじゃ、この先思いやられるな」 「お言葉ですが、仕事をする上で支障はないかと」 「フッ。翼、座れ。ソファにな」 その心底楽しそうな顔。 言われなくても、今度はちゃんとソファに座るけど。 「はい」 「おまえ、昼間、暇だと言ったろう?」 「まぁ」 「暇潰しを持ってきてやったぞ」 何やら企み顔をした火宮が、ドサドサとテーブルの上に何冊も本を積み上げた。

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