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第43話
そうして鬼のように課題を出していった真鍋が帰って行った。
「フッ、あいつは妥協しないタイプだからな。せいぜい音を上げずに頑張れよ」
「うへぇ。はぁい」
やだなー、という思いを隠しもせずに積み上がった教科書をズイッとテーブルの端に寄せた俺を、火宮が楽しげに見てきていた。
い、じ、わ、るー。
ムーッと口を尖らせながら、俺はプィッと火宮から顔を逸らし、料理の続きをするべくキッチンに向かった。
火宮が着替えて出てくる間にハンバーグを焼き上げ、なんとか夕食が整った。
タイミングよくダイニングにやってきた火宮の目が、テーブルの上に向けられた後、薄く細められる。
どういう反応だか。
いいも悪いも言わない火宮が、黙ったままテーブルにつく。
「翼?」
「あー、はい」
「食べるぞ」
席につけ、と目だけで促され、俺は火宮の向かいの椅子に腰を下ろした。
「クックッ。おまえ、野菜は」
「なんのことでしょう?」
「ほら」
「げ!」
ちょっと、なんのために、俺の皿には、付け合せがポテトだけだと思ってるんだよ。
意地悪い微笑みと同時に、火宮の皿からやって来たニンジンのグラッセとブロッコリーの塩茹でが嫌すぎる。
「残すなよ?」
「……」
意地悪。どS。いやもうこれ、苛めっ子?
思わず恨みのこもった視線を向けて、無言になりたくもなる。
「うん、美味いな」
「ッ!」
さっさと1人、ハンバーグに手をつけた火宮の、焦らしもなく惜しみもない賛辞がズルすぎる。
「くっそぉ…」
せめてもの反抗と、わざとフォークの先でチョイチョイと引っ越してきた2品を皿の端ギリギリに追いやってから、ブスッとポテトにフォークを突き立てた。
「ククッ。ガキ」
「んべーっ!」
盛大なあかんべーにも、大した威力なんかないのは分かっているけど。
悔しいものは悔しい。
「ふぅん、なかなか」
薄く笑みを浮かべてハンバーグを咀嚼している火宮は、上機嫌で満足そうだ。
「ッ…」
悔しい、悔しい、悔しい。
だけど…ちょっと嬉しい。
だから余計に悔しい。
完全に火宮のペースだ。
「おい翼。百面相してないでさっさと食べろよ」
「あ?あ、はは」
複雑な感情を持て余しながら、俺もようやくハンバーグに手をつけた。
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