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第44話

「あ、そういえば、今日、浜崎さんいなかったんですよー」 「浜崎?」 ピクリと手を止めてこちらを見た火宮の目が、一瞬鋭かったような気がする。 気のせいか? すぐに何事もなかったようにフォークを口に運んでいる火宮には、特に変わった様子はない。 「はい。下の人って、休みとかあるんですか?シフト…っていうのかな?それはどうなってるか知ってます?」 気になっている疑問をこの機会に解決しておこうと聞いてみる。 「人選やそういうことは詳しくは真鍋に任せてあるが…」 「じゃぁ真鍋さんに聞いた方がいいです?」 「何でそんなことを知りたがる」 「いえ、明日は浜崎さんいるのかなーって」 「フッ。浜崎はここ付きを外した」 「え」 なんで?それって火宮さんがってこと? 「ふん。なんだ。不満か?」 「え…あの、不満っていうか…」 何だろう。火宮の機嫌が一気に降下しているような気がする。 なんかまずいこと言ったかな? 「あ。もしかして、俺が勝手に浜崎さんを使わせてもらうのが悪い…とか?」 「は?」 「だって火宮さんの部下だから…」 あれ?違う感じ? 「何でそんなに浜崎にこだわる」 「こだわるっていうか、なんか浜崎さんは話しやすいし…今日来て下さった神谷さん?は、なんだか無口だしだいぶ年上っぽくて気が引けるし、ちょっと怖い感じがしたから…」 あまりヤクザっぽくない人ばかりに会っていた中、神谷は言うなればいかにもヤクザ、という感じだった。 腕っぷしが強そうで強面で。 「そんなに浜崎がいいか」 「ッ!」 何っ?! いきなり火宮から湧いた、苛立ちに似た強いオーラに気圧される。 ゾクリと寒気がするほどの恐怖が、全身を包んだ。 「ひ、みや、さん…?」 震える唇を何とか動かしたら、壮絶な火宮の冷笑が向いた。 「浜崎が気に入ったのか?」 「気に、入ったって…その…」 年が近いし、見た目もいい兄ちゃんって感じだし、気さくな感じで会話も気軽にできるし…何より調理師を目指しているところがいいんだけれど、なんかこれを言ったら、ますます火宮の機嫌が悪くなるような気がして、俺は黙った。 「翼?何を考えている」 「あの…べ、別に…」 萎縮してしまい、目も逸れてしまう。 「俺を見ろ、翼」 「ッ!」 「翼」 カタン、とテーブルに置かれたフォークの音に、ビクリと身体が強張った。

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