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第51話

その日、真鍋経由で入った連絡は、火宮は夕食までには帰らないというものだった。 それどころか、今日中に帰るのかも怪しいらしい。 先に寝ていろという指示の下、俺はさっさと1人夕食を済ませ、早めにベッドに入った。 連絡の通り、火宮が帰ったのは日付けが変わった後らしく、朝目覚めたらすぐ側にその姿があった。 「んっ…」 「珍しく早く起きたか」 「あ、おはようございます」 出かける直前だったらしく、ベッドの脇に立っていた火宮は、ばっちり決めたダークスーツ姿だ。 「ククッ、寝ぐせが」 さらりと髪を撫でられて、ピクンと肩が跳ねた。 「わっ、あ、すみません」 「いや」 「あ、お仕事ですよね。いってらっしゃい」 寝巻きのままで申し訳ないが、身体だけはちゃんと起こして頭を下げる。 「あぁ。今日は午後、真鍋が来るからな」 「えっ?」 「この間出された課題は終わっているのか?あいつは厳しいぞ」 完全に他人事で笑っている火宮が憎い。 だけどその内容は聞き流せなかった。 「やばい!なんにもやってない!」 「おいおい。せいぜい午前中に頑張るんだな」 「うわぁ。はぁい…」 朝から憂鬱だ。 「ククッ、翼。昼過ぎ、少し引き留めておいてやろうか」 「えっ?真鍋さんを?…っていや、いいです」 思わず飛びつきかけたけど、ニヤリと悪い顔して笑っている火宮を見たら、素直に応じちゃいけないと分かった。 「何故」 「だ、だってまた見返りを要求する気でしょう?代償が大き過ぎるんです」 どSの火宮に隙を見せたら最後。取って食われること間違いなしだ。 「ククッ、そういうことは学習するのか。まぁ好きにしたらいい。ただ、あまりあいつを舐めるなよ」 「はぁ」 「痛い目を見るのはおまえだと忠告してやっている」 フッと艶やかに笑う火宮は、やっぱり格好いいなぁ、なんて呑気に思う。 「じゃぁな。もう出る時間だ」 「あっ、はい、いってらっしゃい」 「あぁ」 ヒラリと振られた手を見送り、俺ものそのそとベッドを抜け出し、リビングに向かった。 「はぁぁっ」 この場に置かれたときから動いていない教科書のタワーが、どーんとテーブルに積み上がっている。 「やるか…の前に、朝ご飯」 嫌なことは後回し。 それで幾度も首を絞めてきた過去の経験則は忘却の彼方に押しやって、とりあえず足はキッチンに向いていた。

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