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第52話
「はーぁ。満腹になったらなったでやる気がしない」
自分で調理したご飯で朝食を済ませ、さて勉強か、とリビングの床に座り込んだはいいが、積み上がった教科書を目の前に、まったく気力が湧いて来ない。
「でもやらなきゃ、真鍋さん怖いらしいし」
渋々伸ばした手で、とりあえず1番上に乗っていた教科書を取る。
「えーと、4ページから、ここまで読んでおけだっけ?うわ…多ッ!」
面倒くさい…と思いながら、適当にパラパラと中身を流し見た。
「はぁっ。終わるかなぁ…」
午前中は後数時間しかない。
かなり足りない気がしながらも、出来る限り、与えられた課題を消化するべく頑張った。
「こんにちは、お邪魔いたします」
昼過ぎ、1時きっかり。
スーツ姿で黒いブリーフケースを提げた真鍋が、リビングに入って来た。
「あ、どうも。こんにちは」
昼食に使った食器の片付けがちょうど終わったタイミング。
キッチンから顔を出した俺は、タオルで手を拭きながら、リビングの方へ出ていった。
「えーと?」
「さっそくですが、勉強を始めます。ご準備を」
真鍋は、無駄が一切ない動きで、さっさとソファに向かう。
俺も、ノロノロしているだけで怒られそうだ。
とりあえず、隅に寄せてあった教科書をテーブルの真ん中にスライドさせて、その前の床に腰を下ろした。
ソファだとテーブルが低いから、床に直座りだ。
準備完了、と対面にいる真鍋を見上げたら、無表情のまま、淡々と筆記用具を持ち出していた。
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