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第53話
あー、本当、綺麗な顔してるよな。
俺は、テーブルを挟んで向かいにいる真鍋の顔をチラチラと眺め、呑気に余所事を考えていた。
「…ですから、この公式に当てはめて…」
淡々と説明を続けている真鍋からは、何の感情も窺えない。
クールビューティとかいうのかな。
火宮とはまた違った、触れたらひんやりと冷たそうな静かな美貌をしている。
これでヤクザの幹部っていうんだもんなー。
モデルをやらせたら売れそう…と失礼なことを考えながらぼんやりしていたら、不意にカツンとテーブルがペンで叩かれた。
「聞いていらっしゃいますか?」
「え?は、はい!」
「ではここまでよろしいですか?」
ここ、とペン先で何やら書き込まれた数式を示されても、なにがなにやら。
だけど。
「はい、大丈夫です」
「そうですか。では続きですが…」
どうせこんな勉強、理解したところで、俺が活用する機会はないのだ。
まったくもって無駄な時間だと思う。
こんな勉強させるくらいなら、もっと別の…。
教科書なんかじゃなく、ソッチ系の雑誌の1つでも用意してくれればいいのに。
俺は火宮の所有物なんだから、火宮を楽しませるテクの1つでも学んだ方が、よっぽど有意義ではないのか。
一昨日は結局イかせられなかったしなー。
あのお綺麗な顔が、俺の奉仕で乱れてくれたら、どんなに嬉しいだろう。
少しでも気持ちよくなってくれたら…。
そこまで考えて、ふと小さな戸惑いが浮かんだ。
「ッ…?」
なんだ?俺、何を考えて…。
思考の先が、火宮、火宮と、火宮のことばかりに向かっている。
違う、違う。
ただ火宮は俺の全てだから。
火宮中心に俺の世界が回っているから、考えが向かってしまうだけだ。
他意はない。
なにせ火宮がいなければ、俺は生きていない。
染まるのも、飲み込まれるのも当たり前で…。
「翼さん?」
ほら。別に俺を拾ったのがこの真鍋だったら、俺はきっと…。
「ッ…」
違、う…。
不意にこみ上げた感情に、愕然となった。
もしも真鍋なら。
火宮と負けず劣らずの美貌だけど。
イケメンでいい男というなら間違いないけれど。
だけどそれなのに。
俺は、火宮さんじゃなきゃ、あんなこと出来ない…?
真鍋のものを…と考えた途端、いいようのない拒絶感が湧いたのを無視することはできなかった。
それは…。
「翼さん」
「ふぇ?へっ?」
あれ?
ふと気付けば、それはもう、絶対零度すらまだ温かいと言えそうな、物理法則を完全に無視した、冷たい冷たい真鍋の視線が向いていた。
やばい。勉強中だった…。
突然引き戻された現実に、直前までの思考は見事に中断され、小さな疑問は消えていった。
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