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第55話
いや、なんで?嘘、いや、なに?
サァッと真っ白になった頭の中が、完全なパニックを起こしている。
テーブルの向かいで立ち上がった真鍋は、ベルトをズボンから抜き取り、冷ややかに俺を見下ろしている。
「っあ…」
なんで?まさかこれ、俺、罰として犯される?
そんなに怒らせたんだろうか。
いや、だからといって、この真鍋がそんな手段に出るはずが。
だって俺は、真鍋が仕えている火宮の所有物で。
「ひ、みや、さんが…」
黙ってないよね?と必死に向けた視線は、冷ややかな吐息に切って捨てられた。
「会長のご許可はいただいております」
「え…」
嘘、でしょ?火宮さんが…?
急にズキッと胸の奥が痛くなった。
「立って下さい。そしてこちらへ」
「ッ…」
嫌だ。従えるわけがない。
床に座ったまま、ブンブンと首を振り、必死で拒絶の意を示す。
火宮だから。火宮だけには、身体を許すことが出来るけれど、他の男になんて…考えただけで吐き気がする。
「翼さん…」
「やっ、嫌ですっ。嫌だ!」
なんで、なんで、火宮は許可なんか。
頭の中が、ぐるぐる、ぐるぐると混乱する。
「はぁっ。説明も聞かず、やる気のない態度を取られたのは翼さんでしょう?罰を与えられるのも当然かと思いますが」
「ッ、だって!だからってこんなのはっ…」
ちょっと話を聞いていなかったくらいでそこまでされる意味がわからない。
「心底嫌なことをされなければ、反省できないでしょう?腹をくくりなさい」
「やだ!嫌だ、できないっ…」
「駄目です。罰ですから」
真鍋の態度には、一切の取りつく島がない。
じわりと、絶望から涙が浮かんだ。
「ほ、んと、に…火宮さん、が…?」
「えぇ。信用ならないのでしたら、確認のお電話を入れましょうか?」
真鍋がそこまで言うのなら、本当なんだろう。
そりゃ、俺は火宮の所有物だし、火宮が俺をどう扱う許可を出そうと自由だけれど。
「っ…ぅ、ふっ…いいです。わかり、ま、した…」
目から溢れたこれは、なんの涙だろう。
何が悲しいのか、この状況が怖いのか。
頬を伝う雫の意味はわからない。
「そうですか。では立って下さい」
冷たい、再度の真鍋の要求だった。
「は、い…」
震える足に、必死で力を込めた。
「こちらへ来て下さい」
どうにか立ち上がった俺を呼ぶ真鍋の声が、ガクガクと震える足を導く。
「ここへ臀部を突き出すように乗せなさい」
ソファの背もたれを後ろ側から示されて、俺はフラリと操られるように、その通りの姿勢を取った。
「ッ…」
背後に真鍋が立った気配がして、いよいよか、と、固く目を瞑り、拳を握り締めた。
「その弛んだ態度、改めていただきます」
冷たい声が耳に刺さり、ゴクリと唾を飲み込んだ喉が鳴った。
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