56 / 719
第56話
ッー!火宮さんっ!
もう駄目だ、という絶望の中で、最後にその名を縋るように呼んでいた。
嫌だっ、火宮さんっ…。
声にはならない叫びを、心の中で繰り返す。
背後でスッと真鍋が動いた気配がして、身体がガチガチに強張った。
「っ…」
バシッ!
え?
突然の衝撃に、一瞬頭が真っ白になった。
は?え?なに?お尻が…。
「痛っ、た、あぁぁっ!」
一呼吸も二呼吸も置いて口をついた悲鳴が、空気をビリビリと振動させた。
「手をどけて下さい」
「は?え?ちょっ、待っ…」
なんだこれ?
だってズボンは履いている。
お尻は痛いんだけど、想像していた、その、無理矢理貫かれたという痛みじゃなくて…。
「翼さん」
「ッ!な、に?」
「はぁっ。縛りますか?」
「え?」
ツン、とベルトが触れたのは、どうやら無意識にお尻に回っていたらしい手で。
「何を勘違いなされているのか知りませんが、怠惰のつけは、臀部への半ダースほどの折檻で支払っていただきますよ」
「え…それって…」
「ベルトで、ここを打たせていただきます。残り5回」
「なっ…」
まさか、罰って、お尻を叩かれるの?
「手を」
「っ…」
いや、ヤられるわけじゃなくて良かったけど、だからってお尻をぶたれるのもいいわけなくて。
「や、だ…」
「だから、駄目です。最初から真面目にやる気を出さなかったことを後悔して下さい」
「ッ…」
お尻を庇っていた手が捕まり、背中に押さえられてしまった。
嫌だ…。
「っ、あぁぁっ!」
痛い、痛い、痛い。
身体が反射的に仰け反る。
嫌だと言っているのに、容赦なく強引に、お尻をベルトで打ち据えられた。
「ひぃっ、痛ッー!」
ボロボロと、目から生理的な涙が溢れ出した。
「うぁぁっ!ごめんなさいー!」
目の眩むような痛みの中、真鍋を舐めたら痛い目を見るのはおまえだ、と笑っていた火宮の顔が思い浮かんだ。
許可って、こういうこと?
まさか、こんな体罰食らうなんて。
火宮の忠告を聞かなかった自分が恨めしい。
「っ、ひっく…」
もう、やだ。
これから真面目に勉強する…。
ともだちにシェアしよう!