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第59話

「翼」 「っ、はい」 「それはどうした」 「それ?」 どれ? 後ろを振り向いてみたら、火宮の視線はジッと俺の下半身の辺りに向かっていた。 「あ…」 「クッ、かなり赤みが残っているようだが?」 揶揄うように揺れる火宮の声に、羞恥で身体が熱くなった。 「だって…真鍋さんが…」 「真鍋が?」 「ちょっと怠けただけで…こんな」 「フッ。だから忠告してやっただろう?」 ツゥーッと悪戯にお尻を撫で上げた火宮の指が、ピンッと意地悪く弾かれた。 「ったぁ!」 「ククッ、手酷く叩かれたようだな」 「っ、だって…」 「いいと思っているのか?」 「え?」 いいって何が? 「俺の所有物に、こんな跡を勝手につけて」 「っ、は?」 勝手って、そもそもつけたのは真鍋で、その許可を出したのは火宮じゃなかったか。 「ひゃぁっ!痛ッ!」 パァンとお尻で弾けた平手の音と、突然の痛みに身体が跳ねた。 「何するっ…」 「仕置きだな」 「え?」 突然の言い掛かりについていけない。 「これは俺のものだろう?勝手に跡をつけるなど許さん。躾けが必要だな」 「ちょっ、待っ…。なんでっ?!」 ぐいっと上半身を押さえつけられて、ガクッと膝が挫け、咄嗟に突き出した両手が床につく。 ハッとしたときにはもう、俺は火宮の足元で四つん這いになっていた。 「ちょっ、いやっ、火宮さんっ」 「なんだ」 「仕置きって、だって、火宮さんが許可したからっ、俺は叩かれたんですよねっ?!それで跡がって…なんで怒る…」 だったら最初から許可なんかしなければいいものを。 これはあまりに理不尽過ぎる。 「フッ。何を勘違いしている。俺が許したのは、真鍋に、翼を罰する権限だ」 「は?だから…」 「もし翼が甘えを見せたり、聞き分けのない態度を取ったりした場合、多少手厳しく咎めてもいいかと聞かれたからな」 「え…」 「構わんと答えた。ただし、消えないような跡はつけるな、と」 えーと?つまり? 「だから、俺は叩かれて…」 「違うだろ」 「え?」 「俺が許可したから翼が叩かれたんじゃなく、翼が真鍋を侮って弛んでいたから罰を受けたんじゃないのか?」 目を眇めて俺を射抜く火宮の言葉は、完全に正論だった。 「っ、そう…な、る…」 「だろう?おまえが真面目に勉強に取り組んでいれば、真鍋はおまえを痛めつけるようなことはしない」 「う…」 「だからこそ俺も許可を出した。翼が何もやらかさなければ、何の問題もないと思ったからな」 「っ…」 「それが、結果はどうだ。念のため、忠告までしてやったのにな。フッ、だから翼、悪いのはおまえだろう?」 言い掛かりかとも思えたが、火宮が言っていることは間違ってはいなかった。 確かに俺が勉強に集中していれば、いくら火宮が許可したからといって、ぶたれるような羽目にはならなかったわけで。 俺のせいか…。 吊り上がった唇の端と、悠然と俺を見下ろしてくる双眸が、妖しい光を反射した。

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