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第89話

っーー! 言葉にはならなかった。 代わりに涙がボロボロッと目から溢れ出す。 本当は欲しくて堪らなかった言葉。 1度は完全に拒絶され、諦めた想い。 それが、いま、ここに…? 「夢かなぁ?」 ポツリと呟いてしまった瞬間、火宮が、少しだけ困ったように苦笑した。 「現実だ」 「っ…」 「信じられないのは分かっている。俺は1度、おまえを酷く傷つけて、あろうことか暴力的に抱いた」 「っ、でもそれは…っ」 俺が望んだからであって…。 「違うんだ、翼。俺は、俺のために、翼をあんな風に、暴力的に犯したんだ」 「っ…え?」 「傷つけて済まなかった。謝って済むことではないことくらい分かっている。俺の身勝手な感情で、身勝手な考えで振り回して…。だけど翼、俺はおまえが本気で好きだよ」 「っ、ん。んっ…」 不意に伸びてきた火宮の手が、俺の腕を取る。 ぐいっと引かれ、力に従うまま立ち上がった身体が、ギュッと強く抱き締められる。 「愛してる…。信じてもらえるまで何度でも。許してもらえるまで何回だって言う」 抱き締められた身体の温かさが、耳元で囁かれる確かな言葉が、これが現実だと教えてくれる。 幸せな想いが、広がっていく。 「火宮さんっ…」 「好きだ、翼。全て話そう」 「っ、ん…」 「言い訳になるけれど聞いて欲しい話がある」 それは、きっと、俺が1度フラれた理由。 互いに苦しいだけの身体の重ね方をしなければならなかった、その理由…。 「わけもわからず傷つけられたおまえには、聞く権利がある」 「んっ…」 ギュッと強く抱き締められた身体がそっと離された。 「聞いてくれるか?」 火宮に促されるまま、ソファに並んで座り直す。 「はい…」 2人分の体重を受けたソファが、キシリと音を立てた。

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