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第91話
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「火宮くんってキミ?うわー、火宮くんって感じ」
コイツ頭大丈夫か?
というのが正直な感想。
次に浮かんだのは、誰だ、これ?という疑問。
「わー、やっぱり、噂通りのクールな視線!格好いい」
ひどく鮮やかに悪戯っぽく笑う男だと思った。
「噂?」
いつものように無視を決め込めば良かったものを、このときついうっかり言葉を返してしまったのが、すべての始まりで、すべての間違いだった。
「うん。1年の学年トップ、美貌の一匹狼。誰が話しかけても一言も相手にせず、寄ってくる人間はことごとく無視。誰とも馴れ合わず、友人1人作らない」
「……」
「必要最低限にしか学校に来ないサボリ魔。そのくせテストは1番。茶髪、ピアスはしない、校則違反も何1つしていないのに、学校イチ目立ってる」
「………」
「孤高の王子様。街じゃ喧嘩最強の気高い王者。火宮刃」
分かった。
コイツ、ストーカーか。
「……」
無言のままクルッと背を向けて、スタスタと歩き出した。
「えへっ。僕と友達になろ?」
「……」
なんで、という疑問はさて置き、進行方向の目の前を遮られたら邪魔で仕方がない。
「悪いが、興味ない」
二言目を話させたのは、この男が初めてだった。
「ふふ、それでこそ火宮刃。僕はね、天束。3年の天束聖だよ。一応生徒会副会長をしてる」
見たことくらいある?
と無邪気に笑う聖を、まじまじと見つめてしまった。
それが第2の間違いだった。
「年上?」
発してしまった三言目は、もうなし崩しの予感しかなかった。
「あははー、童顔でガキっぽいって良く言われるー」
「頭も軽そうだな」
「ふふ、どうかな?一応会長差し置いて3年の学年トップだよ、僕」
ニッと笑う顔は、決して嫌味でも自慢げでもなかった。
うっかりその顔に興味を惹かれてしまったのが、3度目の間違い。
「そんな優等生が、こんな不良と何故」
素朴な疑問の答えを、本当は知っていた。
それは寸分違わず返ってくる。
「退屈だから」
「っ…」
「ふふ、キミはそもそも不良じゃないでしょ」
「……」
「確かに自主休講率は高すぎるし、先生たちは持て余しているけどねー」
このとき、駄目だ、と感じる身の内の警鐘をきちんと聞いていれば、あんな結果にはならなかったのか。
聖への興味がそれに勝ったことは、一生消えない後悔だった。
「仕方ないんじゃない?だって、授業なんてつまんないんでしょ。そこには、キミの知識と教科書に載っている以上のことはない」
「な、んで…」
「ふふ」
鮮やかに、悪戯っぽい笑い顔を見せる聖の表情が、全ての答えだった。
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