91 / 719

第91話

ーーーーーー 「火宮くんってキミ?うわー、火宮くんって感じ」 コイツ頭大丈夫か? というのが正直な感想。 次に浮かんだのは、誰だ、これ?という疑問。 「わー、やっぱり、噂通りのクールな視線!格好いい」 ひどく鮮やかに悪戯っぽく笑う男だと思った。 「噂?」 いつものように無視を決め込めば良かったものを、このときついうっかり言葉を返してしまったのが、すべての始まりで、すべての間違いだった。 「うん。1年の学年トップ、美貌の一匹狼。誰が話しかけても一言も相手にせず、寄ってくる人間はことごとく無視。誰とも馴れ合わず、友人1人作らない」 「……」 「必要最低限にしか学校に来ないサボリ魔。そのくせテストは1番。茶髪、ピアスはしない、校則違反も何1つしていないのに、学校イチ目立ってる」 「………」 「孤高の王子様。街じゃ喧嘩最強の気高い王者。火宮刃」 分かった。 コイツ、ストーカーか。 「……」 無言のままクルッと背を向けて、スタスタと歩き出した。 「えへっ。僕と友達になろ?」 「……」 なんで、という疑問はさて置き、進行方向の目の前を遮られたら邪魔で仕方がない。 「悪いが、興味ない」 二言目を話させたのは、この男が初めてだった。 「ふふ、それでこそ火宮刃。僕はね、天束。3年の天束聖だよ。一応生徒会副会長をしてる」 見たことくらいある? と無邪気に笑う聖を、まじまじと見つめてしまった。 それが第2の間違いだった。 「年上?」 発してしまった三言目は、もうなし崩しの予感しかなかった。 「あははー、童顔でガキっぽいって良く言われるー」 「頭も軽そうだな」 「ふふ、どうかな?一応会長差し置いて3年の学年トップだよ、僕」 ニッと笑う顔は、決して嫌味でも自慢げでもなかった。 うっかりその顔に興味を惹かれてしまったのが、3度目の間違い。 「そんな優等生が、こんな不良と何故」 素朴な疑問の答えを、本当は知っていた。 それは寸分違わず返ってくる。 「退屈だから」 「っ…」 「ふふ、キミはそもそも不良じゃないでしょ」 「……」 「確かに自主休講率は高すぎるし、先生たちは持て余しているけどねー」 このとき、駄目だ、と感じる身の内の警鐘をきちんと聞いていれば、あんな結果にはならなかったのか。 聖への興味がそれに勝ったことは、一生消えない後悔だった。 「仕方ないんじゃない?だって、授業なんてつまんないんでしょ。そこには、キミの知識と教科書に載っている以上のことはない」 「な、んで…」 「ふふ」 鮮やかに、悪戯っぽい笑い顔を見せる聖の表情が、全ての答えだった。

ともだちにシェアしよう!