「えへへー」 目を覚ました瞬間に、間近にあった端正な顔を見て、思わず頬が緩んだ。 「なんだ、気持ち悪い」 嫌そうに歪む顔すら格好いい。 昨夜はようやく気持ちが通じ合って。 だけど俺の身体のことを気遣った火宮に抱かれることはなく。 ただ何もせずに寄り添い合って眠った。 「今朝はゆっくりなんですね」 俺が起きたときに火宮がいるのはとても稀で、さらにベッドの中にいる姿なんて、初めて見た。 「ふっ、さすがに真鍋が察しているさ。有能な秘書でもあるからな。スケジュール調整には抜かりないはず…」 だから多少の重役出勤は…と考えていたらしい火宮のスマホが、突然けたたましく鳴り響いた。 「……」 「鳴ってますよ？電話」 ものすごく嫌そうにスマホに手を伸ばした火宮の顔が、さらにものすごく嫌そうに歪んでディスプレイを睨みつけた。 「あの鬼」 「ぷっ…」 誰？と尋ねなくても、その言い草で相手は簡単に想像がついた。 「くそ。血も涙もないなあいつは」 「ほら、出てあげないと？」 スマホの画面を睨んだまま文句を垂れている火宮に悪戯なウインクを向けてやる。 いかにも渋々といった様子で、火宮の指がディスプレイ上をスライドする。 「何だ。…あぁ…そうだ。…はぁ？５分だと？…っな…」 あーららっと。 本当、おたくの秘書さん、有能でいらっしゃるようで。 「チッ。くそ。悪い翼、すぐに出ないと」 スマホを切った火宮は、どよんと黒いオーラを纏い、一気に不機嫌になってベッドを抜け出していく。 「お仕事ですか？」 まぁ平日だしね。 「あぁ。くそ、今日に限って…」 なんかイレギュラーの動かせない予定でも入ったのかな。 足早にクローゼットに消えた火宮が、素早くスーツ姿になって戻ってくる。 その間に俺もベッドから抜け出して床に足を下ろす。 「悪いな、翼。おまえはゆっくりしてろ」 「いえ。お仕事頑張ってください」 「あぁ。…ふっ」 「っ？！」 なっ！ いきなり火宮の顔がドアップになったかと思ったら、恐ろしいほどの早技で唇が奪われた。 「クックックッ、だから目くらい閉じろって」 ガキ、と笑う悪戯な顔。 「なっ…なっ…」 「くくっ、行ってくる」 ヒラリと手を振り、悠然と踵を返して寝室から消えていくイケメンな後ろ姿を呆気にとられて見送ってしまう。 「っーー！」 ガチャガチャと玄関を出ていく物音が聞こえた頃、ようやく事態を認識して、ボンッと顔が熱くなった。 「い、行ってらっしゃいのキスってこと？うわー、うわー、うわー」 何だこれ。 やたらと照れる。 「恋人同士みたいー。うわー、うわー」 思わず顔を覆った両手の平が、頬の熱さを感じ取る。 「ふ、ふふふ…えへへ」 恋人、なんだ。 突然実感がジワジワと湧き上がり、俺は寝室で１人、不審者よろしく身悶えた。