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第718話※

「っ、あっ…ふっ」 幸せ。 そう、確かに幸せだったはずなのに。 「あぁっ、もう、そこっ…だめぇっ」 食欲が満たされた、と思ったら、今度は早速ベッドに移動して、すでにこれだ。 「ククッ、駄目?どこがだ」 「あっ、あっ、ぜんぶっ…ぜんぶだめっ」 ぬるりと全身を這う舌に、俺は早々に泣き言を漏らしていた。 「クッ、嘘をつく口はどれだ?」 「ふぁっ、あっ、あんっン…」 がばりと噛み付く勢いで、唇が熱く塞がれる。 我が物顔で蹂躙される口内から、タラリと唾液が溢れ出した。 「んっ、あふっ…」 あぁヤバイ。気持ち良すぎて全身から力が抜ける。 「ふっ、オイタが大好きな悪い口だ」 「あぁっ、いやぁっ…」 ぐちゅり、と指先を突っ込まれ、舌を掴まれた喉が鳴る。 「あふっ、んっ、んーっ」 ぐちゅぐちゅと掻き混ぜられる口内に、自然と涙が滲んだ。 ダラダラと溢れる唾液は飲み込みきれずに顎を伝い、必死で逃げ惑う舌が、知らずのうちに火宮の指に唾液を塗りたくる。 「ククッ、その顔」 「ふぁっ、あ、んんっ…」 「苦しそうに歪んでいるくせに、どこか恍惚としている」 このどM、と笑う火宮の目を、俺はギリリと睨みつけた。 「クッ、その目も、最高だ」 容易く折れず、挫けず強気に輝く。 「それが快楽に屈服する瞬間がたまらない」 「ほのほへすっ」 「『このどS』、か?」 ククッと愉しげに喉を鳴らし、目を細める火宮が、心底楽しそうだった。 「なんの仕置きか分かっているのか?」 「ふ、ぁっ…」 あ、そうだった。 ヤバイ、俺ってば、そういう暴言のお仕置きで、こういう目に遭っているんだった。 すっかり忘れてた、と引きつった顔は、バッチリ火宮の眼下に晒されていて。 「ククッ、それでこそ翼だ」 愉しいな、と声を上げて笑う火宮に、俺はへらりと不細工に笑うしかなかった。 「クッ、ほら、足を上げろ」 「うぁっ、あっ、やっ…」 がばりと広げられた両足は、当然のように衣服をまとってはいないから、余すところなく火宮に全てを晒す。 「ククッ、なんだ、期待しているのか」 「ひゃぁっ!なっ、いきなりっ、どこ触って…っ」 ばっちりと火宮の目の先に捧げた後孔に、ぬるりと唾液で濡れた火宮の指が触れた。 「ふっ、こうされるのを待って、ヒクつかせていたくせに」 「あぁっ、あっ、んっ…」 「簡単に飲み込んでいくな。気持ちいいのか」 「あっ、やっ、違っ…」 「違わない。気持ちいいな?ククッ、俺の指を銜えこんで離さないぞ」 「あぁっ…」 触覚と、視覚と聴覚まで侵さないで。 ぐちゅぐちゅと、わざと音を立てるようにナカに指を突き立てられて、腰が勝手にユラユラと揺れた。 「ククッ、だが仕置きだからな」 「っあ…あぁ、やだぁ…」 かちり、と小さな音を立てた、ソレの意味を嫌でも分かってしまう。 ゆるく頭を擡げた中心の根元に、ぐるりと這わされたものの感触は絶望でしかなかった。 「ふっ、いいと言うまでおあずけだ」 「あぁっ、そ、んな…」 イきたい。イけない。 快楽地獄の始まりだ。 ガクガクと震える身体を、火宮がさも愉しげに見下ろしていた。 「ククッ、悪さの大好きなこの口が、泣いて許しを乞うのが見物だな」 「っ、っ…」 あぁ、本当に、このどS。 またネタを与えてしまうから、決して口には出来ないけれど。 「クッ、だからその顔」 「ふぇっ?うぁぁっ?!やぁぁっ」 グリッとナカのいいところを抉られて、ビクリと身体が仰け反った。 「んぁっ、あっ、あっ、火宮さんっ…じんっ」 「ククッ、2本…3本…。この淫乱が」 「いっ、やぁ…やぁっ、はぁっ、はっ…奥っ、ナカっ…」 気持ちいいんだか苦しいんだか。 チカチカと目の前が瞬いて、ぼろりと大粒の涙が目から溢れた。 「ほら、どうする?翼。前をそんなに大きくすると、リングに締まって痛いぞ」 「うぁっ、あっ…じんー」 ぐちゃぐちゃと、ナカを刺激されれば抱かれることに慣れ切った俺の身体は容易く快楽を拾い上げる。 ゆるりがむくりと確かな勃起に変わり、火宮の言葉通り、縛められた中心がリングに阻まれてギリリと痛んだ。 「うぁっ、ぁっ、あっ…お願…ゆるして、ぼうげ…ごめんなさ…」 「ん?」 「あぁぁっ!」 ちょっ、聞こえない振りとか、ズル過ぎないか? きょとりと首を傾げたからって、可愛くもなんとも…。 うっ、可愛い…。 大概火宮に対して感じる感想ではないとは思うんだけど、計算ずくのそれに、キュンとなる心臓はどうしようもない。 「ふぁっ、あっ、あぁっ…」 だからって、ナカで蠢く指先は全く優しくないんだから、そのギャップがさすが火宮様だ。 「ん?翼。ほら、どうした?」 「ふぁっ、あぁっ…」 どうしたじゃない。 ナカ。そんないいところばかりをグリグリと擦られたら、出したい言葉も出せやしないじゃないか。 「ほら、どうする。このままでは苦しいままだぞ」 「あっ、あっ、あぁっ、そこ、やだぁっ…」 「嫌?そうか?」 こちらはそうは言っていない、って…性器をグリグリと刺激するのをやめて欲しい。 「あぁぁっ、あ、痛ったい…くるし…っ」 ほら。勃つから。 勃っちゃうから。痛いよ、苦しいよ。 ぼろり、と目から溢れた涙を、今度は優しく拭われた。 「ククッ、いい顔だ」 「こ、の、どえす…」 あぁ、だからこういう暴言が、火宮を愉しませてしまうのに。 「ふっ、はははっ。さすが翼だ」 「ふ、ぇっ…じん。じんー」 もっ、なんだよ、その最高に楽しそうな笑い声。 こんな目に遭わされているのに、そんな顔はズルイじゃないか。 「あっ、あっ…えろ、おやじ。意地悪…ずるい…」 「ククッ、なんだ。空イきがお望みか?」 なんならこのまま挿れるぞ、と、脅し混じりに囁かれ、俺はひくんっと喉を鳴らした。 「翼?」 「ふ、ふ…暴言には、お仕置き…ですよね?罰、与えるんで、しょう?」 俺も大概無謀だなぁ、とは思う。 だけどあなたのそんな楽しそうな顔を見られるのは、嬉しくて楽しくてたまらないから。 あなたが俺の意地っ張りな顔を見るのが楽しいように、俺だって火宮の愉悦に緩んだその顔が、好きなんだよなぁ。 「ふっ、翼。どこで覚えた。悪いやつだ。そして、いい度胸だ」 最高だよ、と笑った火宮が、ずるりと育てるまでもなく臨戦態勢のそのいちもつを取り出す。 「仕置きだ、翼。せいぜい可愛く啼くがいい」 「ひっ、ぁ…あぁぁあっ!」 たらりとローションが垂らされたと思ったら、ぬめりを纏った火宮の性器が、指の抜かれた後孔に、ずんっと力強く突き入れられた。 「うぁっ、あっ、あっ、あぁーーっ!」 イく。っていうか、イッた。 挿れられた刺激だけで、射精もせずに一瞬で。 「あぁっ、はっ、はっ、はっ…」 あぁ、空イキが止まらない。 「くっ、翼、締めすぎだ…っ、しっかり、息をしろ…っ」 きゅぅ、と眉を寄せた火宮の顔が、苦痛と快楽の半々で揺れる。 「あっ、あっ、わかんな…っ、わかんない、じん。刃ー」 「翼っ…あぁ、最高だ」 ずるり、と動き出すナカの肉棒に、ビクビクと身体が勝手に痙攣する。 「うぁっ、あっ、あっ…じん。じんー。好き。大好き、気持ちいい…」 ぎゅぅと伸ばした手で火宮の背中に抱き付いて、必死でその律動に呼吸を合わせる。 「くっ、はっ、最高だな、翼。堪らない、持って行かれそうだ」 「あっ、あっ、イく。まだイく。またイく…」 ずっとイきっぱなしの感覚の中で、さらに一際大きな射精感に襲われる。 「あぁっ、じんー。ぼ、げん、ごめんなさ…もっ、ゆるして、おねがぁ…」 そろり、と探し求めた火宮の唇に、ちぅっ、と雛のように唇で吸い付く。 「ふっ、はっ、おまえは、まったく」 可愛くてたまらない、と囁いた火宮の指が、するりと性器に回ったのが見えて。 「ククッ、思い切り出すといい」 「あっ、あっ、あぁぁぁ、あぁぁーーっ!」 ぱちん、と外されたコックリングに、解放された熱が怒涛のように流れていく。 「ひぁっ、あぁぁっ!」 それに合わせてズンッと最奥を突かれ、俺は至上の快楽に、激しく大きな絶頂を迎えていた。 「クッ、翼…っ」 きゅぅと寄せられた火宮の眉が、ふわりと柔らかく緩んでいく。 にまり、と持ち上がった口角に、びゅくっと中で弾けた熱を感じ、たまらない幸せに涙がぼろりと溢れた。 あぁ、火宮さんも、イッてくれた…。 へにゃりと崩れていく顔は自覚した。 ようやく解き放たれた、と脱力していく、そのはずが。 「え…?あっ、やっ、火宮さっ…もっ、イった!イッたのにぃっ…」 「ククッ、とどめだ。出せ」 「あぁぁぁっ、いやだっ、これ、いやっ、いやぁっ…あーーーっ」 イききって、完全に油断していたところを、わずかの容赦もなく揺さぶられる。 「だめっ、だめっ、いやっ、出るっ…出ちゃ…」 ごしごしと、イッたばかりの性器を腹と腹の間で擦られて、たまらない熱さが体内を荒れ狂った。 「だっ、めぇーーーっ」 ヒクンッと仰け反った身体が、すべてを教えていた。 ぷしゃっ、と堰を切った液体は、もう留める術もなくびしゃびしゃと溢れ出す。 「くくっ、締まる…」 「あぁっ…」 あぁ、まただ。 また大きくなった火宮の性器が、ナカで嬉しそうにびくりと震えて、びしゃりと熱い飛沫を叩き出したのが分かった。 「あぁぁぁ…」 俺の中心からはサラサラの透明の液体が、これでもかというほど零れ続ける。 互いの腹を、滴ったシーツをびちゃびちゃに濡らしながら、俺は火宮の目論見通り、まんまと潮を吹かされることになっていた。

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