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第142話※
「っ…はっ、あっ…んッ…」
ジーンと熱くなった身体を持て余す。
「っ、く、そ…ばか火宮ぁ…」
ハッ、と上がってしまう息を喘がせながら、必死で熱を抑えようと、自分で自分の身体を抱き締める。
ドクン、ドクンと鼓動を早める心臓を落ち着かせようともがきながら、微かな物音がする浴室のドアを睨みつけた。
「っ…ん、あッ…」
熱い。
身体が熱い。
マンションに帰り着いてすぐ、ニヤニヤと悪い顔をした火宮に差し出された白い錠剤を押し返したのは一瞬で。
強引で意地悪な火宮に、拒否する間も無く口の中に押し込まれ、口移しという逃れようのない手段で水を流し込まれた。
当然塞がれた口では、流れ込む水は飲み込むしかなくて、口内にあった錠剤は、押し流されて胃に落ちていった。
「ふっ、はっ…んあッ…」
目の前のテーブルにバラバラと散らかされていった、卑猥な道具たちが腹立たしい。
俺にわけのわからない薬を盛った張本人は、意地悪な笑顔で俺をリビングに放置して、シャワーを浴びてくると言ってさっさと浴室に消えていった。
『触るなよ?』
中心をスルッと撫で上げながら、耳に吹き込まれた意地悪な台詞が蘇る。
『こっちは、好きにしたらいいけどな』
ククッと喉を鳴らしながら、スゥーッと後ろに滑った指先の感触を思い出す。
ついでのように寝室から持ってきた紙袋の中身を、バラバラとテーブルの上に零していってくれた火宮が憎い。
「っ、だ、れがっ…」
するか!とついた悪態は、喘ぐ呼吸に呑み込まれていく。
火照る身体が、ふらりと目の前の道具たちの誘惑に負けそうになる。
「っ!絶対、しないっ…」
テーブルに伸びそうになる手をギュッと握り込み、爪が手のひらに食い込むほど硬く力を入れる。
その痛みで少しだけ、気が紛れるような気がした。
「ククッ、翼?」
「っ…ひ、みや、さん…」
やっと出てきた。
カタンとドアが開いた音がした浴室の方に目を向ければ、バスローブを身に纏い、髪は濡れたままで無造作に流している火宮の姿が見えた。
わずかに上気した肌色が、ゾクッとするほど色っぽい。
「ん?どうした?」
「っ…」
どうしたじゃないだろう。
「さてと、一杯やるか。翼も飲むか?ノンアルコールカクテルなら作ってやるぞ」
ソファで身悶える俺をサラッと無視して、キッチンに向かう足音がムカつく。
「何がいい?甘めか?さっぱり系?それとも普通に水か茶か?」
カラン、と氷をグラスに落とす音が聞こえた。
まさかこの人、本気で、この状態の俺を放置する気か。
「っー!火宮さんっ!」
ムカつく、ムカつく、ムカつくー!
自分だけ涼しい顔をして。
自分だけさっぱりシャワーを浴びてきて。
挙句に自分勝手に晩酌だと?
「なんだ」
「っ…」
スッと向けられた視線には、わずかの熱も欲もなくて。
俺1人が欲情に翻弄されていることが、たまらなく悔しい。
「だいきらい」
ふらりと立ち上がった身体で、本心とは裏腹の憎まれ口を叩く。
「だいきらいっ…」
意地悪。どS。バカ火宮。
悔しくて、腹立たしくて、俺はドカドカとキッチンの火宮に近づき、ストンとその目の前に跪いた。
「翼?」
余裕の笑みを浮かべた火宮が、少しだけ不思議そうに俺を見下ろす。
「すぐになくしてやりますから」
その余裕で綺麗な表情。
ジロッと睨みをきかせながら、立っている火宮を見上げる。
「んっ…」
そろりと伸ばした手でバスローブの裾をよけ、案の定、下着をつけていない生肌を確認する。
「翼?」
「あなたも、堕ちろ」
欲情の渦の中へ。
ニィッと意地悪く笑いながら、俺は侵入させた手で裾を開き、目の前に現れた火宮の性器に口を寄せた。
「ククッ、随分と積極的だな」
「ほのほふう、すぐになくはへへあげまふよ」
その余裕、すぐになくさせて…。
「クッ、なかなか…」
下を向いてダランとしていた性器が、むくりと頭を擡げ出す。
「んッ…んぐ…んァ…」
大きい…。
目一杯開いた口を、前後に揺らして、舌も絡める。
ピクピクと反応する性器が、徐々に角度も大きさも増していく。
「んっ…ン、あ…」
ツゥーッと裏筋を舐めたとき、カランと頭上で氷の揺れる音がした。
「んっ?…ん、ァ…」
チラリと目だけを上に向ける。
少しは欲情して余裕をなくしたかと期待した火宮の顔は…。
ゆったりと酒を注いだグラスを傾けながら、面白そうに微笑んで、余裕を有り余らせて俺を見下ろしていた。
「っな…」
くそっ、ムカつくー!
「ククッ、気持ちいいぞ」
「ふほふき」
確かに反応はしているけれど、声も表情も何も変わらない。
「クッ、おまえは人のをしゃぶっているだけで、随分よさそうだな」
スゥッと意地悪なオーラを纏い、跪いた足の間をツンツンとつま先で突いてくる。
「んっ…やめっ…」
確かにこちらも緩く反応して勃ち上がってしまっているけれど、それは火宮が薬なんか飲ませるからであって。
断じて俺が淫乱とかそういう話じゃない。
「どM」
「だから俺は違っ…あァッ!」
踏むな!痛い!
俺の性器を弄んでいた火宮のつま先に、グイと力が込められた。
「っ、ば、か…」
仰け反って悲鳴をあげた口から火宮の性器がこぼれ出る。
うっかり口走った文句は相変わらずの暴言で。
だけど俺はMじゃない。
痛いことは大嫌いなんだ。
「ククッ、萎えないぞ?」
「っ…そ、れは、薬が…」
他の理由なんかあるものか。
「ふぅん?」
なんだその胡乱な眼差しは。
気の無い声を漏らしながら、グニグニと性器を足で刺激するのはやめて欲しい。
「薬、ね…」
「んっ、あっ、あぁっ!」
足のくせになんて器用な。
服も着たままだというのに、しっかり弱い箇所を擦り上げてくる。
「ククッ、きつそうだな、翼」
「そ、れはっ、火宮さんが…っ」
悪戯するから。
「脱げ、翼」
「っ…や、あぁっ…」
「脱いで……触れることを許してやる」
「ふぇ…?」
どゆこと?
スッと引かれた火宮の足をぼんやりと目で追いかけ、そのままゆっくりと上に辿って火宮を見上げたら…。
「自分でしろ」
「は…?」
「俺の前で、自分でして見せろ、翼」
「なっ…」
何言ってるの、この人…。
呆然と開いてしまった目の先で、火宮の表情が妖しく揺らめき、ゆっくりとサディスティックな笑みを形作った。
「オヤジを誑し込んだ仕置きだ。やらなければ…」
な、何?
意味深なところで言葉を切るな。
先が気になって、勝手に想像して怖くなる。
「っ…」
ずっとこのまま?
もっと酷いことをする?
言われてないのに、言われた気になって、心臓がバクバクと音を立てる。
「翼」
っ!ズルい。
「やれ」
ゆったりと、意地の悪い笑みを浮かべた火宮の中に、俺を見つめる愛しい光を見つけてしまった俺に、逆らう術はなかった。
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