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第144話※

「っ、あっ、あぁっ!またっ…またぁっ!」 「クッ、いいぞ、イけ」 「ひっ、ぃあぁぁっ…」 ハァァッ。 これで一体何度目だ。 あれからすぐにベッドに運ばれ、互いに生まれたままの姿になって絡み合い、何度も何度も貫かれた。 バックに、騎乗位、向かい合わせと、横からと。 「うぁぁ…」 出しても出してもまた穿たれれば力を取り戻し、すっかり白色をなくすまで搾り取られた性器がやっと項垂れる。 放ちまくったもののせいで、ベッドも身体もドロドロに汚れ、火宮と繋がった後ろはすっかり溶けてしまったみたいだ。 「クッ、ハッ…」 火宮もまた絶頂を迎え、ようやくズルッとナカから出ていく。 「ククッ、限界か?」 「はぁっ、はぁっ…あ、たり、まえ…」 何回ヤッたと思ってる。 いくらなんでも強い薬を盛りすぎだ。 「死ぬって…」 「ククッ、今日はやけに積極的で、やけに興奮していたな」 「っ、だってそんなの、薬が…」 強すぎ、と文句を言いかけた俺は、ふと火宮の唇が意地悪く弧を描いていることに気がついた。 「薬がな」 「え…」 「ククッ、翼。プラシーボ効果って知っているか?」 え。 唖然と固まった俺を何だと思ったのか。 火宮がニヤリと笑ったまま、ポイッとスマホを投げて寄越した。 検索しろって? 「いや、意味は知ってますから」 「ククッ、ではその呆けた顔の意味はなんだ?」 「は?いやまさか」 そんなはず。 「ククククッ、俺は嘘はつかん」 に、ぃっ、とひどく妖艶に、ひどく意地悪に笑んだ火宮の顔は、まんまとしてやった満足感に満ちていた。 「だって…」 媚薬だって…。あれ。 「ん?もしかして、言ってない…?」 ふと思い返してみれば、そういえばただ黙って口に押し込まれただけで、火宮は一言もその錠剤が何なのかは口にしてはいなかった。 「嘘…。だってそんな…」 あんな意地悪い顔で、あんな玩具とかを散らかして、それっぽい煽り文句を言われれば、俺じゃなくてもそう思う。 「じゃぁ俺は一体…」 何を飲まされてあんなに乱れた。 「ククッ、あれは、糖だ」 「へっ?」 「よく見知ったものの言い方をすれば、要はラムネ菓子、ということになるな」 多少加工はされているが、と笑う火宮は、完全な確信犯だった。 「そんなっ…」 だって甘くなかった。 「偽薬だ。溶けにくく、味も抑えてあるに決まっている。だが成分はただのブドウ糖」 「っ、なんでっ…」 だって身体、本当に熱く…。 「おまえの欲求だろう?」 「嘘だっ…」 アレも、コレも、あんなことも、こんな発言も?全部、俺は…。 「っーー!」 ボスッと顔を埋めた枕にくぐもった呻き声が漏れた。 「ククッ、翼」 「嫌だ。酷い」 「ふっ、俺は、嬉しかったがな」 楽しかったの間違いでしょ。 触るな。 背中をそんな風に今更優しく撫でたって。 「全力で俺を求め、俺に欲情し、これでもかというほど俺を食い尽くす。俺だけにそんな姿を見せ、欲を滲ませる本気のおまえが…」 「っ…」 本物だって? あぁどうか嘘や間違いだと言って。 「ククッ、おまえはまだまだ俺の愛を甘く見過ぎだ」 「は…?」 まさか、それって…。 「ふっ、俺の恩人と言っていい人に、嫌われるよりは気に入って欲しいという思いは嘘ではないが…」 「っ…」 「俺以外の男におまえの良さや魅力が知れて、魅了し気に入られるのは面白くない」 この人は…。 「だから、お仕置き?」 火宮の前で自慰をさせられたことだけじゃない。 偽薬を媚薬と騙され、自ら火宮を求めるよう仕向けられたことも、乱れに乱れて火宮だけにドロドロに溶かされたことも全部。 「ククッ…さぁな?」 意味ありげに笑う火宮の答えは、誤魔化されたって容易く分かった。 「本当っ、どS!」 本当もうこの人どうにかして。 だけど…。 「妬いたんだ…」 こんな意地悪で愛おしい罰が語ってる。 「ふっ。…たとえ恩人に等しい人でも、翼にまったくその気がなくても。これは俺のだ。俺のものだ」 ツゥーッと背骨を辿った指先が、首元で一旦ピタッと止まり、スゥッと筆記体で何かを書いた。 いや、『何か』じゃない。筆記体と分かった時点で、それが何という文字かということは分かっている。 「っ!」 ガバッと枕から上げてしまった顔で、火宮を振り返った。 「ん?」 「っ…擽ったい、ですっ…」 「ククッ、それは悪かった」 思っていないくせに。 「俺はいつか、おまえから空気すらも奪い去って、窒息させてしまうかな」 この人は、惚れた腫れたではない思いでも、俺に向く好意が気に食わないんだ。 いずれ、俺が吸い込む空気にすら、嫉妬しかねないと言い出す、その想いは。 「ふふ、好きですよ」 それは、重い。 重くて深い、火宮の愛。 それでも俺は、受け止める。 「刃」 「なんだ」 怪訝な顔も格好いい。 そっと起き上がって、耳に唇を寄せて。 「I love you…」 発音は大丈夫だったかな。 背中に書かれた文字のお返しに。 「クッ、本当に、おまえは…」 コソッと囁いた言葉に返った、火宮の弛みきった顔。 ーーLove 背中に書かれた文字が、そのまま跡になって残ればいいのに。 ふわっと俺たちを包んだのは、甘い、甘い、むせ返るような幸せの空気だった。

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