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第152話

トイレを済ませて出てきたら、手枷を持った火宮が待ち構えていた。 「う…」 ネクタイと違って、明らかに専用の道具というのに怯めば、火宮の目がスゥッと眇められた。 「ククッ、約束だぞ?」 「分かってます…」 渋々両手を揃えて前に突き出したら、火宮がククッと喉を鳴らした。 「嫌そうだな」 「それはそうでしょう?なんか、逮捕されるみたい…」 「ふん、俺をサツと一緒にするな」 「あー、敵でしたねー」 ふふ、と笑ってしまったら、火宮の唇が意地悪く吊り上がった。 「翼、先に服を脱げ」 「はい?」 「これをしたら脱げなくなるからな」 まぁ、手枷をした後に脱ごうとすれば、当然手のところで服が引っかかるけど。 「脱ぐって何で…」 「ククッ、風呂に入らないつもりか?」 「っあ…」 そうだ。そんな厄介なものがまだ残ってた。 「えーと…」 「ふっ、安心しろ。手が使えない分、俺が優しく丁寧に髪も身体も洗ってやるからな」 ニヤリ。 ようやく火宮がトイレを許した意図が読めた。 「っ!最初からそのつもりで…」 「ククッ、何のことだ」 「っー!どS!」 「約束したのはおまえだ」 そうだけど…。 「反故にするつもりか?」 「っ、いえ!しませんよっ」 俺だって男だ。二言はない。 一度した約束は、ちゃんと守ってやる。 「ふっ、いい目だ」 「あ、まり、見ないで下さい…」 覚悟は決めたけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。 スルリと服を脱ぎ去った俺は、再びズイッと火宮に両手を突き出した。 「ククッ、やけに従順だな」 「っ…」 カシャと手首に嵌ったリストバンドのようなもの。 2つの間は短い鎖で繋がれていて、ほぼ両手の自由はないに等しい。 「ふっ、翼。俺に委ねろ。身も心もすべて」 「っ…」 「おまえの全てを愛してやる」 緩く唇を吊り上げた火宮が、両手の自由を奪った手枷を撫でる。 あぁ重い。 重いけれど、これが火宮の独占欲と愛。 「あなたにだけです」 こんな風に理不尽なものいいも受け入れられるのは。 大人しく拘束されることも許せてしまうのは。 「好きなんだもんなぁ…」 火宮だけが、ただ1人。 何を言われたって、何をされたって。 決して嫌いになれないんだからもう、惚れ抜いているのは俺も同じだ。 だから妬かなくたっていいのに。 手料理くらい、お裾分けしたって俺の気持ちは分散しないし減らないのに。 「行くぞ」 ククッと笑った火宮に手を引かれ、俺はフラフラとそのまま浴室へ連れて行かれた。

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