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第155話

それから2日後。 俺はサエに指定された待ち合わせ場所の近くまで車で送ってもらい、少しの距離を待ち合わせ場所まで徒歩で向かっていた。 後ろには目立たないように浜崎がついてきているのが分かる。 今日はまるで影みたいに存在感を薄くしてくれていて、その気遣いに心の中で感謝した。 「えーと、確かこの辺…」 「あっ、つー!ここ、ここ。こっちだよ!」 待ち合わせ場所近くでグルリと周囲を見回した俺は、先にサエに見つかって、大声で呼ばれた。 「目立つから!」 やめてー、と叫びながら、サエの側まで走る。 その周りには、もう何人かの見知った顔があった。 「うっそ、本当につーだ!」 「わぁっ、本当久しぶり」 「やぁん、変わってない」 ワイワイと途端に囲まれ、好き勝手言われる。 「そりゃ半年程度で変わんないって!みんなもじゃん」 見た目はね、と言う言葉を飲み込んで、俺はニッコリと笑った。 「ハル、ナノカ、マヒル、久しぶり。男子は?」 見れば集まっているのは女子ばかり。 「もうすぐ来るでしょ」 どうせ遅刻魔ばっかだよ、と笑うサエが、道の向こうにどうやらまたクラスメートを見つけたらしかった。 「こっち、こっちー!」 「だからサエ、声大きいって」 通りかかる人がびっくりして見ているじゃないか。 クスクス笑っている女子たちも苦笑だ。 「あぁ、懐かしい」 このノリだ…。 「ぷぷっ、つー、しみじみ何さー」 「はぁっ?だって懐かしいんだもん」 「あはは。そっかー、色々あったんだっけね」 「まぁまぁそれはお店でゆっくり」 揃ったから行くよ、と言うサエの言葉に周囲を見れば、いつの間にか、クラスの半数以上の人間が揃っていた。 「はーい、グラス行き渡ったー?」 サエの明るい声が、予約してあったらしいカラオケボックスのパーティルームに響き渡った。 「ちょっ、サエ、その声量でマイク使うなって!」 運悪くスピーカーの側に座ってしまったやつが、キーンとなったらしい耳を押さえて文句を言っている。 「えー?あたしの生声で通るかなぁ?」 「十分だからーっ」 ドッと上がる笑い声が、懐かしい記憶を呼び覚ます。 「ぷぷっ、本当変わらない」 「何か言ったかな?つばさくん」 「え?いや、何も?」 「よろしい。ではグラスの準備はよろしいでしょうか」 大袈裟に畏まったサエの言葉に、クスクス笑いながらもみんなそれぞれジュースの入ったグラスを手に取る。 「それでは本日は、つー、こと伏野翼くんとの再会を祝しましてぇ〜」 「長いって!」 「固すぎ〜!」 ヤイヤイ上がる野次の声に、サエの唇が尖る。 「んもう、みんなうるさいーっ!」 「キャァッ…」 「サエのがうるさいーっ」 「耳。耳痛い、キーンてしたっ」 マイクを通してうっかり叫んだサエに、室内は阿鼻叫喚の渦だ。 「あははは。もう飲んじゃうよ?」 「こらそこーっ!フライングは罰ゲームだかんね!」 あぁもう。あっちこっち大混乱で…。 『楽しい…』 ポソッと落ちた俺の呟きは、みんなの騒ぎに消えていき、サエが必死で場を纏めようと奮闘している姿が目に入る。 「サエ、サエ」 ワタワタと叫んでいるサエを手招いて、近くまで呼ぶ。 「何、つー?今忙し…」 「マイク貸して」 「え?」 キョトンとしたサエからマイクを奪い取り、俺はその場に椅子から立ち上がる。 「はいっ、グラス上げてー!」 「つー?」 「つばさ?」 「翼ちゃん?」 「今日は俺のために集まってくれてありがとうー!楽しもう!乾杯っ!」 わぁっ、と盛り上がった空気と、カチン、カチンとグラスが合わさる音が上がる。 「あっ、つー!あたしの仕事!」 取ったぁ!と膨れているサエに笑って、グラスをスッと掲げてみせる。 「お疲れ」 「っ、ズルいなぁ、もう」 「ふふ、今日はありがと」 「こちらこそね、来てくれて」 チン、と合わさったグラスを互いに口元へ運び、俺たちは目を合わせてジュースを喉に流し込んだ。

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