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第156話
「それでつー、学校来なくなってからどうしてたの?」
ワイワイと好き勝手にグループになりながら、雑談に花が咲いている。
俺の周りに座った数人は、やっぱり俺の近況が気になるようで。
「今はどうしているの?その、ご両親…」
「あぁ、うん、死んだんだよね」
新聞で見た、という呟きがあがり、俺は静かに頷く。
「じゃぁつー、今は…」
「うん、えーと、遠い親戚?みたいな人が、一緒に暮らしてくれるって言ってくれて…色々面倒とかその人が。家もその人ん家に住ませてもらってるんだよね」
嘘混じりの近況説明。
真鍋にしてもらった入れ知恵を、俺は迷わず披露する。
「そっかぁ。学校は?」
「うん、その人が行かせてくれるって」
「じゃぁまた…」
「でもごめん。別の高校なんだ」
「そ、っか…」
しゅん、と萎んだ元級友の声が、しんみりと場の空気を湿らせる。
「あっ、明太子ピザどれ?」
「こっちチーズ」
「あれじゃね?」
パッと空気を切り替えてくれたのは、隣に座っていたハルという女子で。
「つばさ、明太子好きだったよね」
「あー、うん。覚えてた?」
「当たり前。だって超偏食のつばさが食べられる数少ないものでしょー」
「偏食言うな。まぁ間違ってないけど」
それで火宮にもよく注意されるんだよな。
ふふ、と思わず笑みを漏らしてしまったら、周りのみんなの視線が集まった。
「つー、幸せそうだね」
「えっ?そう、かな…」
「うん。ご両親亡くなったりとか、きっと私たちには話してない大変なこともいっぱいあっただろうけど…」
「あー、まぁ、うん」
正確には、話せないこと、なんだけど、でも言う必要は多分ない。
「その、お世話してくれてる人って、どんな人?」
「えっと…どんなって、社長さん?」
嘘じゃない。
全部ではないけど。
「え!社長?すごーい」
「うん。とてもお金持ちで…俺を大事にしてくれる」
思わずふわっと笑ってしまったら、みんながほわぁ、と変な顔をした。
「つーが元気そうでよかった」
「つばさ、幸せそうでホッとした」
クシャッと髪をかき混ぜられて、ギュッと隣からは抱き締められて。
やばい。涙滲む…。
「ちょっ、俺はマスコットじゃないからーっ!」
パッと感傷を振り払って、わざと明るく騒いでみせる。
ついでに女子に抱きつかれて、冷静ではいられない気持ちも誤魔化してみたり。
でもドキドキしたのがバレたら、火宮にきっとお仕置きとかって…。
「わぁーっ!」
「キャッ、びっくりした。つばさ、いきなり何」
「あ、ごめん。つい」
まずい、まずい。
つい思い出して何焦っているんだか。
「ふふ、なんかつばさ、変わってない、と思ったけど、やっぱ変わった」
「へっ?」
「色気出た」
「はぁっ?」
ツン、とほっぺたを突かれても、どうしたらいいものか…。
「もしかして面倒見てくれてるその人って、女の人?」
「え?いや男」
かなりのイケメンだけど。
「えー、てっきりいい恋してるのかと」
「っ、ブッ、ゴホッ…」
「やっ、ちょっとつー?!」
「ゴホゴホッ…ご、ごめん」
飲み込み損ねたジュースに咽せた。
「つばさ、図星?」
「は?いや、その、違っ…」
「分かりやす」
ふふっと笑うハルに、俺は曖昧な苦笑を返すしかなかった。
「何なに?つーに恋人発覚?」
「ラブラブ?アツアツ?このリア充が」
「えーっ、可愛いつーちゃんに恋人?想像つかねー!」
そういう話には耳聡く、遠くに座っていた友人たちまで一気に話が広がっていく。
「あの、ほんと、これはやめて…」
恥ずかしいし、何より色々と突っ込まれると非常に困る。
「いやいや、これはあれこれ聞くっきゃないでしょ!」
「いや、あの…お、俺っ、トイレ!」
「あっ、つー逃げた!」
やばい、やばい。
その恋人というのが同性だということも言えなければ、実は一緒に暮らしているのもその人で、しかも本当はヤクザなんですー、なんて、口が裂けても言えない。
思わず部屋から飛び出した俺は、後ろ手にパタンとドアを閉めて、はぁっと深い溜息をついた。
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