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第161話
「んっ、ふっ…ぅぇっ、ぁぁぁ」
「翼」
「っ、ふ、っえ…っく、ごめっ、ごめんなさっ…」
やばい。涙が止まらない。
そっと肩を支えてくれる火宮の手が優しくポンポンと俺に触れる。
「ククッ、よかったのか?」
「っ、な、にが…っく」
「あれは、相当いいオンナだぞ」
揶揄うように笑う火宮は、俺を励まそうとでもしてくれているのか。
「この俺に噛み付いて、怖いくせに踏ん張りきかせて堂々と目を見返してきた。強く清らかで、きっといいオンナになる」
「そうかな」
「あぁ。逃してよかったのか?」
ククッと笑うこの人は、本当もう何を言ってるんだか。
「それでも俺は、火宮さんがいいんです」
しょうがないでしょ。
サエがどんなにいい女でも、俺は火宮さんだけが好きなんだから。
「ククッ、そんなに好きか?」
「知ってるでしょ」
「そうか。どんな極上女より、俺がいいのか」
そこまでは言ってないけど、まぁ結局そうなんだろうね。
「ん?翼?」
「知りませんよ!そんな誘導尋問には引っかかりません」
こんな公園で、真鍋も池田も浜崎もいるのに。
一体何を言わせるつもりだ。
「じゃぁ言葉じゃなくて、態度で言わせるか」
「は…?」
何?と思ったときにはもう、グイッと顎をとられて仰向けられた顔に、火宮の顔が迫っていて。
「んーっ!」
油断した。甘かった。
今更気づいても後の祭り。
「んんっ…んッ、ァッ」
強引に苛烈に、口内を激しく舌で犯され、唇が離される頃には、すっかり腰が抜けていた。
「ふ、はっ…この、この…」
「ククッ、これだけ感じやすければ、よそ見なんて到底できないな」
俺だけだ、と笑う火宮は、本当に本当にブレなく…。
「このどSーッ!」
公衆の面前で。
なんていうキスをかますんだ。
可哀想に浜崎なんかは顔を真っ赤にしてパニクっているし、池田は池田で困惑して顔を逸らしている。
真鍋だけがシラッと冷めた目を向けているけど、しっかり呆れ果てているのは分かる。
「もうっ、きらい!ばか火宮!意地悪!」
次々溢れる苦情と、ポカポカ殴る手は照れ隠し。
「ククッ、なぁ翼」
「っ…」
何。
急に俺の手首を掴んで。
急に真剣なトーンを滲ませて。
「俺で、いいのか?」
っー!
だから、何言ってるの、この人。
本当もう、調子狂う。
「火宮刃がいい」
不安になるなら何度でも言う。
光の世界を蹴ってでも、俺はあなたの側がいいんだから。
闇色の世界にどっぷり浸かることになったって、火宮がいればそれだけでいい。
「陽の当たる世界に帰れるチャンスだったぞ」
「それが何ですか?俺はね、火宮さん。たとえ、行き着く先が地獄でも」
ふわりと浮かぶ微笑みは、俺の心からの本当の気持ち。
「あなたがいればそれでいい。俺は、あなたのいない天国よりも、あなたと共にある地獄を選ぶ。だってそこが、どんなに昏い地獄の果てだとしても、隣にあなたがいればただそれだけで、そこは俺にとって…」
最高の楽園だから。
「愛してます」
ただ1人、あなただけ。
真っ直ぐ届け、この想い。
「翼」
ふわりと綻んだ火宮の顔は、きっと俺だけがさせられる、俺の宝物。
少しだけ自惚れた気持ちが、ふわりと俺を包み込む。
「ククッ、まぁだがおまえが堕ちる地獄はな、やっぱり快楽地獄だろう?」
「っな…」
本当もうこの人は…。
「素直に、本当の地獄になんか落とさない、って言えばいいのに」
まったく、どこまでも歪んでるんだから。
「ククッ、そうか。じゃぁ今夜はじっくり励むか」
「もっ、ばか…」
『ふっ、俺もおまえと行き着く場所ならば、それがたとえどこであっても…』
っ!もうっ…泣かさないでよ。
ーー至上の地…
そっと囁かれた言葉に、温かい涙が溢れて溢れて止まらなかった。
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