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第177話※
「っ、ぁ…ぅ」
ブルッと震えた身体が、パタリとソファに倒れた。
あぁそうですとも。
どうせ勝てるとは思っていなかったけれども、結局あれから車内での火宮の意地悪な尋問に、俺はあまりにあっさり陥落した。
『仕置きだな』とサディスティックに笑った火宮の顔が、ムカつくほど愉しそうだったのを思い出す。
「っん…この、どS…」
息も絶え絶えに漏らす文句は、喘ぎに変わらぬようにと必死の我慢の結果だ。
俺は今、両手首を火宮のネクタイに拘束され、後ろにローターを入れられた状態で、会長室のソファに放置されていた。
「ひ、ぅ…あンッ」
わざと前立腺を掠めるように入れられたローターがもどかしい快感となって俺を襲う。
『罰だ、1人で遊んでいろ』と、俺にこんな仕打ちをした張本人は、そこのデスクで涼しい顔をしてパソコンに向かっている。
「あっ…んっ、あんっ…」
必死で食いしばる歯の奥から、堪え切れない熱い吐息が漏れてしまう。
それでも火宮はどこ吹く風と、シラッとした顔で仕事に集中しているのだ。
「っー!」
くそぉ、と思って睨みを利かせてみても、火宮の無反応は変わらない。
俺は1人、会長室のソファで身悶えながら、意地悪な恋人の仕事をしている横顔を見つめた。
「んっ、はっ…あッ」
悔しいけど格好いい。
タカタカと手元も見ずに滑らかにキーボードをタイプする長い指先に見惚れる。
書類や画面を眺める鋭い目は、ゾクッとするような色気があって。
次々と仕事を処理していく姿は、できる男そのものだ。
「っ…んっ」
こんなどSなのに。
恋人を拘束して、ローター突っ込んでお仕置きするような意地悪な男なのに。
「ふっ、ぁ…んんっ…」
好きなんだもんなー。
火宮ではないけれど、これはMと言われても仕方がないのかもしれない。
「っ、ん、でも…火宮さんにだけだし…」
他の誰かがしたならば、嫌悪と怒りでどうにかなってしまうだろうことはたやすく想像がついた。
「んっ…あっ」
ゴソッと身動ぎした瞬間、ローターの位置がわずかにずれて、思いもよらなかった快感が突き抜けた。
「ひっ、やぁぁぁっ…」
『翼』
シーッ、と口の前で人差し指を立てた火宮が、目を眇めて俺を見た。
その手にはいつの間にか電話の子機が握られていて、何やら流れるような英語が口から走っている。
「っ…ぅ…」
俺の存在なんて意識外に押しやっていたんじゃないのか。
ペラペラと英語を話しながらも、ニヤリと悪戯っぽく吊り上がった唇の端が答えか。
「んんっ…」
困るんならこんなことやめてくれればいいのに。
ギッと睨みつけながら、ゆっくりと身体を起こした俺の目の先で、火宮の空いた片手がローターのリモコンに伸びるのが見えた。
「っ…んっ」
振動を止めてくれる?
願いが届いたのか、と期待した俺の目に、妖しく微笑む火宮の艶やかな笑みが見えた。
あ、これやばいやつだ…。
「ひっあぁぁ…んぐっ、むぐ…」
ギクリとした瞬間にはもうローターのスイッチがマックスに回されていて、喉をついた悲鳴に近い嬌声を、必死でソファの背もたれに押し付けて堪えた。
「んっ…んんーっ…」
やばい。
気持ちよくて腰が勝手に揺れる。
しっかり勃ち上がってしまった性器が、ズボンの前を押し上げている。
「んっ、はっ…ンンッ」
後ろ手に拘束された手では何もできずに、俺は後孔から湧き上がる快感に突き動かされるまま、スリスリと無意識にソファに中心を擦り付けていた。
『こら』
いつの間に近くまで歩いてきていたのか。
不意にクシャリと髪を掻き混ぜられて、俺はハッとして動きを止めた。
「っあ…」
俺、何してた?
自分の行動を自覚した途端に、カァッと頬が熱くなる。
「っ、いやっ…」
見ないで。
なんて浅ましい俺。
ブンブンと振った首からパラパラと涙が散った。
『ククッ、か、わ、い、い、ぞ』
通話相手に英語を話す傍ら、口の動きだけで告げられる日本語があった。
「っ…」
もう、何それ。何それ、何それ!
カァァッ、と熱くなる頬がさらに温度を上げる。
「ふっ、ぁ…あぁっ…」
スッとソファの背もたれに軽く尻を乗せて、伸びてきた火宮の手が、そっと俺の涙を掬っていった。
「……looking forward to it again next time…」
バィ、と紡がれた言葉だけは分かったけれど、他は流暢すぎて何が何やら。
ただ、通話が終わったということはそれだけでも十分分かって、俺は詰めていた息をホゥと吐き出した。
「ククッ、辛そうだな」
ポイッと向かいのソファに子機を放り投げ、火宮が背もたれを乗り越えようと片足を上げた。
ようやく許されるのか…と脱力しかけた瞬間、コンコン、と無慈悲なノックの音が響き、ガチャリと入り口のドアが開いた。
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