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第201話※
「さてと。まずは嫌なことから先に済ませるか」
「えっと…」
嫌なことって?
寝室に入って、スタスタとベッドまで歩いて行った火宮が、何故かベッドの端に腰掛けて俺を手招いた。
「ほら、来い」
「あの…」
来いって、その…。
「真鍋はあれでも俺を相当重んじてくれているところがあるからな」
「へっ?あの…」
膝をポンポンと叩きながら言われる言葉はよくわからないけど…。
とりあえずそこに座れってこと?
「ほら」
ソロソロと近づいて、火宮の膝にとりあえず乗ろうとした俺は、何故か間合いに入った瞬間、腕を取られてよろめいた。
「えっ?わっ…」
引かれた腕に身体がつられて、ドサッと火宮の腿の上に転んでしまう。
「ふっ、苦痛が嫌いなおまえを知っていて、この罰の指定とは、本当にあいつはタチが悪い」
「っ、まさか…」
この体勢って。
「少し痛いぞ、翼。だがこれはケジメだ、我慢しろ」
「っ…」
火宮の膝の上にうつ伏せで、背中を押さえられて、ズボンを下ろされて…。
嫌でも分かる、痛いお仕置きの予感に、身体が勝手にジタバタともがいた。
「嫌っ…嫌です」
「俺も好まないがな。仕方がない。おまえは、真鍋が大切にする『会長』に、言葉のやいばを向けたんだ。あれがブチ切れずに務めを果たしたのは、ひとえにあいつの忠誠に他ならない」
「っ…」
「俺はそれに応えてやらなきゃならん」
でも、だからって、こんな、お尻ペンペンって…。
「やだ。やだ…」
痛いの、本当に嫌いなのに。
「おまえを迎えに行かせたときの真鍋の不機嫌さといったら…。あの自制心には感服するが」
「っ…」
あのとき真鍋は相当キレていたと思ったけど。滅茶苦茶怒鳴られたけど。あれでもまだ抑えていたっていうの?
「ふっ、一部では、真鍋が本気で怒ると、俺より遥かに恐ろしいという噂だぞ」
「う…」
それは少し分からなくもないけど…。
「その真鍋に直接手を下されるよりはマシだと思え。真鍋も分かっていて俺に譲る。その思いはわかるな?」
「っ…」
そう言われてしまうと、いつまでも嫌、嫌、言うのもどうかと思ってしまって…。
だって、何より火宮が大切な真鍋と、その火宮が大切にしてくれる俺だから、意を押し殺して俺を容認する。その、真鍋の懐はどれだけ深く、その思いはどこまで強いのか。
「っ、俺…」
「10発だそうだ。こればかりは、翼、おまえが自分で落とし前をつけろ」
「っ、分かりました…」
痛いの、嫌いだけど。
嫌で嫌でたまらないけど、俺は多分、火宮をとても大切に思う真鍋も傷つけた。
ここで逃げたら男じゃない。
このお仕置きは、ちゃんと受けよう。
「手加減…しなくていいですから…」
「ククッ、随分と男前だな」
覚悟を褒めるように笑った火宮が、スルリと下着も下ろしてくる。
膝の上でお尻を剥き出しにされて、お仕置きされようとしているところで、男前も何もないと思うんだけど…。
「唇…」
「え?」
「噛むな。傷になる。ほら」
バサッと目の前に差し出されたのは、いつの間に脱いでいたのか、火宮のスーツのジャケットで。
「縋ってろ。噛んでも構わん」
「っ…」
またこんな高級スーツを、そんなあっさりと。
だけどふわりと香った火宮の匂いに、ちょっとだけ緊張と恐怖が解れたのも本当で。
「甘いって、真鍋さんに怒られますよ?」
「ククッ、俺がおまえに絆されることなんて、真鍋はとっくに予測済みさ。さぁ、軽口はここまでだ。いくぞ」
スッ、と空気を引き締めた火宮につられて、俺は与えられたスーツをぎゅう、と抱き込んだ。
ギュッと目を瞑って、スーツに顔を埋めて、覚悟を決めた瞬間、ふっと背後で風が動き、バチン!とお尻を衝撃が襲った。
「ひっ…たぁぁい!」
手加減いらないとは言ったけど、こんなに痛い?!
反射的に足がバタバタともがき、悲鳴が勝手に口から迸った。
ジンジン痺れたようになったお尻が、じわじわとむず痒い痛さを教えてくる。
後9発。後9発…。
ぎゅっと火宮のスーツを抱き締めて、次の痛みに必死で身構える。
「ふっ…」
え?
笑っ……
「いったぁぁいっ…痛いっ!」
パンッ、パァンと連続して尻たぶを張られて、俺は思わず仰け反った。
「クッ、これはこれは…癖になったらどうしてくれる」
「ふぇっ?」
なんだか不穏な空気と愉しげな雰囲気が背後で湧き立っているんですけど。
「ククッ、苦痛に悶えて揺れる、薄く色づいた尻が…」
「な、に…?」
叩いた手が、スルッと叩いたそこを優しく撫でて、わざとらしく割れ目にスゥーッと指を滑らせてきた。
「やっ、あぁぁ…」
「クッ、挟むな」
「っな…」
悪戯に指を折り曲げた火宮が悪いのに。
うっかり谷間に侵入されそうになってお尻に力が入ってしまったのはただの反射だ。
「ほら後7発。力を抜け」
「っ…」
背中を押さえていた手で頭をそっと撫でられて、ふにゃりと緩んでしまったお尻から火宮の手が遠ざかる。
やばっ…。
油断した瞬間を見計らったかのように、またもパンパンと双丘が張られた。
「あっ、あぁっ…」
うぅ、痛い…。
ジンジンと痺れるような痛みがお尻に残る。
パタパタと跳ね上がる足は、苦痛を逃してなんかくれなくて。
ぎゅっと握り込んだスーツに、滲んだ涙が吸い込まれていく。
「ククッ、あと半分」
な、何だか愉しそうに声が揺れているんだけど…。
「っ!」
パンパンとお尻を叩いた後、スルッと滑ったその手は何。
今度は明らかにいやらしい意図を持って熱くなった肌を撫でてくる手に、ビクリと身体が強張った。
「ふっ、痛いか?」
「っ、ん…」
当たり前でしょ!
むにむにと尻肉を揉んでくる火宮の言葉にコクコクと頷く。
お尻は熱いしジンジンするし、赤くなっているのは確実だろう。
多分少し腫れてもいるんじゃないだろうか?
「クックッ、可愛らしく赤みを帯びて、痛いと叫びながらウズウズと振られる尻は、何とも…」
そそるな、って、待て。
「な、何に目覚める気ですか…」
ただでさえ手に負えないどSなのに。
これ以上余計な扉を開かないで欲しい。
「まぁ、その痛みに涙する泣き顔はさすがに可哀想だとは思うが…」
愉悦に揺れた「可哀想」はまったく説得力なんてなくて…。
「っ…」
「とりあえず残り3発」
っ!
「いっ…た、ぁぁっ…」
俺は真鍋が言い残した回数分、痛みにしっかり泣かされた。
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