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第210話※
「うっ…んっ、んンッ…」
火照った身体に、シーツの冷たさが気持ちいい。
けれども薬が効き始めて熱を持った身体が、すぐにそのシーツを温めてしまう。
俺はうつ伏せでベッドに突っ伏したまま、ヒヤリと冷たい場所を求めて、モソモソとシーツの上を移動していた。
「ふっ、んっ…アッ…」
やばい。
嫌々ローションを塗りつけて、渋々後ろに入れたローターは、もちろんイイところには当てていない。
当然、スイッチだって入れていないけれど、薬を飲んだ身体には、わずかな身動ぎが命取りだった。
「んンッ…あァッ…」
シーツに擦れた肌が、うっかり快感を拾い上げ、それにつられて締め付けてしまった後ろから、ゾクゾクとした快感が湧き立った。
くそっ…。足りない…。
薬でおかしくなった身体が、もっと大きな、もっと強い刺激を求めてのたうつ。
前を自分で弄ることは許されていなくて、だからといって後ろをというほどはまだ理性が崩壊していない。
「く、ぅっ…やぁ、ぁぁ…」
いつまでこうして焦れったい快感に悶えていなくてはならないのか。
帰宅時間の読めない火宮を待つ身体が辛い。
「うぅ…あ、アンッ…」
空腹で気持ち悪くなるまで夕食の時間を遅らせ、薬を飲んでから火宮が帰るまでの時間を極力減らそうと目論んだのに。
「遅効性…な、のに、まだ、帰らないとか…」
もう何の嫌がらせだ。
なるべく早く帰るって言っていたくせに。
「ふ、ぁっ…あぁっ、ンッ…」
もうやだ。
もう助けて。
知らず知らずのうちに、手は勝手にローターのリモコンに伸びる。
「っ…だ、めだ…。それだけは…」
わずかに残った理性が、最後の砦を守ろうと、必死に抵抗する。
もしも欲望に負け、自らスイッチを入れてしまったら、何かが終わる気がする。
けれども媚薬の熱に浮かされた身体は、もう開き直って快楽を求めてしまえと唆してくる。
天使と悪魔が囁き合い、理性と欲望がせめぎ合う。
「ふ、ぁっ、あぁっ…んっ、あァンッ」
無意識に、スリ、とシーツに擦り付けた中心が、ますます硬さと角度を増した。
ズボンの中でパンパンになっている性器が、触れてしまえ、解放させてくれと訴えてくる。
「あっ、はっ…んンッ…」
もう駄目だ。
これ以上は耐えられない…。
十分頑張った、と自分で自分に言い訳する。
コツ、と指先に当たったリモコンを、ギュッと握り締める。
「ンッ…」
スイッチを入れれば、きっとその刺激で射精できる。
ナカのローターの位置もほんの少しずらしてやればいい。
前立腺とやらに当ててやれば、きっと解放される…。
スゥッと目を閉じて、震える指先に力を込め…。
「ふ、ぅっ…く、そっ…」
あぁ、俺は何でこんな極限状態でも、意地を張るんだろう…。
ギュッと握り締めたリモコンは、放物線を描いて、ベッドサイドのゴミ箱に飛び込んで行った。
「クッ、はははっ、さすが負けず嫌い」
「っ?!」
突然、寝室の壁際から上がった笑い声に、ビクッと身体が跳ねた。
「え…?」
いつの間に。
ドアが開閉した様子も、人が入ってきた気配もまったくなかったのに。
「クックックッ、それほど強力な媚薬ではないにしろ、さすがに辛いだろうに…」
ゆったりと近づいてきた人の影が、キシッとベッドに乗り上げてきて…。
「ふっ、ベトベトだな。イッたのか?」
ズボッとズボンの中に突っ込まれてきた手が、先走りでヌルヌルになった性器に触れた。
「ひ、みや、さん…?」
帰ってきたのにも気づかないほど夢中だったのか。
「ん?」
「イっ、て、ない…。いつから、見…」
「ククッ、腰を擦り付け、リモコンを求めた辺りだな」
「っ…」
そんなところから黙って見学か。
本当、どSで悪趣味だ。
「こんなになりながらも、折れないとはな」
ククッ、と愉しげに喉を鳴らす火宮の目がスゥッと細められた。
振り返った体勢になっていた身体が、グルンと返される。
向かい合う形になった火宮の顔が、それはそれは面白そうに艶やかな笑みを浮かべた。
「これでも意地とプライドが勝つんだ。そりゃ、プロポーズにも頷かないわけだ」
ククッ、と笑いながら、ズボンをズルンと下ろしてくる。
一緒に下着も持っていかれてしまい、すっかり形を変えた性器がピンッと露わになった。
「やっ…」
見られるのは初めてではないけれど、何故だかとても恥ずかしい。
「ククッ、すべての感覚が研ぎ澄まされているだろう?」
薬のせいだ、と囁かれる声にまで、ゾクゾクと感じた。
「あぁっ、火宮さんっ…」
もうイかせて。
本当は限界なんてとっくに突破していて、もう意地だけで耐えているようなものなのだ。
「も、許し…。こ、れ以上は…壊れ、ちゃ…」
ヒクンッと喘いだ喉を、カプッと火宮に甘噛みされた。
「あぁっ…いぁっ、あンッ…」
もう何もかもが気持ちいい。
「刃。じんー」
もういいや。
意地も理性も手放してしまえ。
火宮がいるから。火宮が来たから。
後はこの人が何とかしてくれる。
「ククッ、飛んだか。仕方ない」
絶対的な信頼に身を委ねた瞬間、それはそれは鮮やかに微笑んだ火宮が、解放を求めて震える性器を握り込んできた。
「イけ」
リモコンはおまえが捨てたからな、と笑う声が遠い。
決定的な刺激を与えられた中心が、ようやく訪れた解放の予感に震え、白濁を撒き散らす。
「あっ、あっ、あぁっ…」
くたぁ、と脱力していく身体に反して、今出したばかりの性器は、またすぐに力を取り戻した。
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