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第220話
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「人の殺し方を教えて下さい」
噂で聞いたことのあった暴力団組織の総本部。七重組の本宅に、単身乗り込んで行った真鍋は、居合わせた組員に、一笑に付されて門前払いをされるところだった。
「ではせめて、銃を売って下さい」
「はっ、阿保か。このご時世、銃器の取り扱いなんぞ、どこの組でもご法度だ」
やいのやいのと揉めていたところに、ふらりと外出から帰ってきた火宮が現れたのが、真鍋と火宮の最初の出会いだった。
「………」
邪魔だ、と言わんばかりに、無言で真鍋と組員を迷惑そうに流し見た火宮と。
突然現れた、闇を切り取って持ち出したような漆黒を纏う火宮を見上げた真鍋の目が、そのとき初めて、絡み合った。
「っ!人の殺し方を教えてください!でなければ、とある人間を1人、この世から葬り去ってくださいっ。金ならいくらでも払います。その願いが聞き入れられた暁には、私をどう好きにしていただいても構いません。どうかお願いですっ…」
悲痛な叫び声を上げる真鍋に、火宮は薄っすらと目を細めて…。
「五月蝿い」
きっぱりとひと言を言い残して、真鍋たちの横を通り過ぎ、屋敷内へと消えていった。
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「うわ…」
「今思えば、会長らしすぎますけれどね。当時の私の第一印象は、最悪、でした」
ふふ、と珍しく笑い声を漏らす真鍋と、火宮も同じ印象を語っていた。
「でも…」
2人の出会いは、それだけでは終わらなかったはずだ。
だって今、2人は同じ道の上にいる。
「えぇ、その日は2、3痛めつけられて、どこかのゴミ捨て場に放り出されました」
「………」
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それでも。
それでも、最短距離がヤクザの手助けを乞うことだと考えていた真鍋は、懲りずに七重組の本家に足を向けた。
今度は真っ向からではなく、少々の搦め手を使って。
そこで、火宮と2度目の、本当の出会いを果たした。
「クックックッ、ボッコボコ」
「っ、きみは…」
「あんた、馬鹿なのか?」
愉しげに喉の奥を鳴らす火宮は、通称仕置き部屋、という名の拷問室で、ボロ雑巾のようになっていた真鍋を眺めていた。
「馬鹿とは…無礼なガキ」
「ククッ、元検事のスパイもどきに言われたくないね」
ニヤリ、と口元を歪ませた火宮が、血の匂いも生々しい、傷だらけの真鍋が横たわる室内に、ゆっくりと足を踏み入れてきた。
「どうして…」
「ククッ、だから、馬鹿か?と。突然組にやってきた、わけのわからん男の素性を、調べない組長ではない。あんたの身元なんてとうに知れて、その噂が立ったあんたが今度は見張りの組員を眠らせてこっそりと屋敷内に侵入しているのを見つければ、誰だって捕らえて拷問にかける」
「っ!私は元検事でも、スパイでもない」
ズタボロの身体を、それでもどうにか起き上がらせて、真鍋は真っ直ぐ火宮を見上げた。
「ただ組長に、今度は直談判しようと…」
「見上げた根性だ。それほどまでに憎み、殺したい相手は、レイプ犯か」
に、いっ、と頬を持ち上げた火宮に、真鍋の視線は釘付けになった。
「きみは…」
「ククッ、報告書をたまたま見てな」
普段ならば、こうして他人に興味を示すことなど、火宮はしないはずだった。
なのにこのとき、なんの気まぐれか、火宮の興味は真鍋に向いていた。
「っ、ならば…」
「やめておけ」
「なっ…」
「元々検察官を目指していたような男だ。今ならまだ間に合う。すべて忘れて、向こう側へ帰れ」
ふっ、と皮肉げに笑う火宮を、真鍋は真っ直ぐ睨み上げた。
「きみに何が分かるっ」
「分かる」
「何を…っ」
「復讐など、くだらない、ということが、分かる」
悠然と、真鍋を見下ろし、その折れているだろう腕をぐしゃりと踏みつけ、火宮は笑った。
「っ、う、ぐぁぁ…」
「痛むか」
「あ、たり前、だ、どけろ」
折れた腕をさらに痛めつけられ、真鍋は真っ青い顔をしながらも、火宮を睨み上げた。
「ククッ、この痛みが分かるうちは、復讐なんかするもんじゃない」
「な、ぜ…」
「痛みや苦しみを感じられるなら…あんたはそれを、復讐なんかに使っちゃいけない」
昏い目をして自分を見下ろす火宮の言葉は、じわりと真鍋の心に何かを滲ませた。
「妹君は、何か言っていなかったか?」
「っ…それは」
「妹君が残した言葉の意味を、よく考えろ」
「っ、きみになどっ…」
「顔向けできなくなるぞ」
「え…」
「その真っさらな手を、墓前に合わせてやりたいだろう?」
「っ、きみは…」
「赤に染まった身で、妹の元へ向かおうとするあんたを、そいつが笑って迎え入れてくれると思うのか?」
ふっ、と笑った火宮の手が、ゆっくりと持ち上がった。
「俺は聖の墓前に、この血濡れた手を合わせられない。俺は聖が向かった天ではなく、2度と会えない、地の底に堕ちていく」
「っ…けれどっ」
「あんたは地獄がどんなところか、想像できるか?」
「っ…」
「どうしてもと言うのなら、俺が代わりに殺ってやる」
スッ、と持ち上がった火宮の手は、何故か拳銃を握っていて…。
「あんたを、な」
ダァンッ、と激しい銃声を聞いたのを最後に、真鍋の意識はそこで途絶えた。
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