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第243話※
「んっ…ひ、みや、さっ…やっ」
後ろからぎゅっと抱き締められたまま、意地悪な指先が口の中に入ってきた。
「ん、はっ…あ、っあ…」
クチュッと差し込まれた指が、逃げようとする舌を挟んで捕らえてくる。
「んんっ、あぁっ…ふぁぁ」
指のせいで閉じられない口の端から、ツゥーッと唾液がこぼれた。
「ククッ、ほら、翼。俺が眠っている間、一体どんな悪さをしたんだ?」
ふっと耳に息を吹き込まれ、ゾクゾクと鳥肌が立った。
「ん?早く白状しないと…」
「ひぁっ…あぁっ、やぁっ…」
にゅるっとした感触を耳の穴に感じる。
「あっ、はっ…だってあれは…ッ」
こ、このどS…。
言わせる気があるのかないのか、話そうとするそばから、口の中の指は増やされるし、悪戯な舌がベロッと耳の中を舐めてくるし。
「やめっ…はっぁ、あぁっ…」
これじゃぁ話したくても話せない!
「ククッ、ほら、あれとはなんだ」
「っ、んっ、やっ…ぁっ、そこ、だめ…」
抱き締めていた方の手がスルリと降りて、ズボンのチャックを外してくる。
無防備に晒された下着の中に、手が入ってきた。
「っ、んんっ…あっ」
やわやわと直に中心を揉まれて、俺はたまらず身悶えた。
コンコン。
「っ!」
えっ?誰っ?
ビクッと固まった俺に構わず、火宮は中心を弄る手を止めてくれない。
「ちょっ…」
鍵、閉まってないよね?
スゥッとスライドしていく入り口のドアに、俺は慌てて身を捩った。
「火宮さんっ…」
「ククッ、なんだ?」
「っ…」
呼んだんじゃないから!
シラッととぼけているこの人を、誰か何とかして。
必死の願いも虚しく、ドアが大きく開いて、ノックをした人物が入ってきた。
「やぁっ…見、られ…」
「失礼しますよ、火宮さん……って、きみたちは…」
「あぁ先生、どうした?」
スッとドアを開けて入ってきたのは、白衣をまとった医者で。
「ここはラブホテルじゃありません。まったく、そういうことはよそでやりなさい」
やれやれ、と肩を竦めて近づいてくる医者だけど、待って。
この状況を見て、それだけ?!
あまりに冷静というか、どこかズレているというか。
もう少し驚くとか、慌てるとかしてくれないものか。
「っ…」
そもそも医者なら、この状況を見て、火宮を止めろよ、と思うのは俺だけか。
「ククッ、よそでなどつれないことを言うな。なにせここは、お誂え向きにベッドはあるし、防音室だし、むしろうってつけの場所」
待て待て待て。
「病室だからっ」
「そうだな」
そうだな、って、だから、本来こういうことをする場所ではないってことで…。
「ちょうどいい。先生、それを貸せ」
「それって、これ?」
スッと口と下着から出て行った火宮の手が、医者に向かって差し出されて…。
「はぁっ?」
もう本当、何する気だ…。
いや、分かりたくないだけで、嫌ってほど分かる気がする。
「まぁいいけど、壊さないで下さいよ」
どうぞ、って手渡されるのは、医者が首にかけていた聴診器で。
「それも」
「なっ…」
「はいはい」
火宮の要求に、バサリと脱がれた白衣が視界に映った。
「ちょっ…」
一体なんだ、この状況は。
医者は火宮の診察か処置に来たんじゃないのか。
「あーぁ、この様子じゃぁ、点滴なんてさせてくれそうにないね」
「後だ」
「はぁっ。火宮さん、幸い弾は貫通したとはいえ、銃創を甘く見ないで下さいよ」
「分かっている」
「ならいいんですけどね」
待って!
仕方ないな、って!
いいわけないからっ!
なんで。なんでこの医者、平然と火宮の我儘に納得してるわけ?
「あぁ、心配するな。それより先生、ものはついでだ…」
コイコイって医者を手招きして、ちょっと俺を遠ざけて何の耳打ちか。
『…えっ?医療器具…まぁそれは…』
ニヤリって向いた火宮の目に、悪い予感しかしない。
「頼んだぞ」
「すぐに用意します」
な、なんの話…。
火宮が浮かべる悪巧みの表情に、嫌な冷や汗がたらりと垂れた。
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