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第266話
あぁダルい。
腰が痛くて死にそうだ…。
「…くん。…宮くん」
まったくあのどS。
今日も普通に学校があるというのに、容赦なく抱き潰してくれて。
まぁでも最終的には俺も…。
「火宮くんっ!」
「うわっ、はいっ?!」
やばっ…。
授業中だった。
突然響いた大声に、俺は飛び上がる勢いで椅子から立ち上がった。
「こ、の、問、い。きみ、当たっているよ」
起きてる?と、冷たい目を向けてくるのは、ただいまの担当科目の教師で担任様だ。
「えーと…」
何なに?
DNAがどうしたって?
完全に授業を聞いていなかった俺は、当然ながら、何を質問されているのかも分からず、目を泳がせるしかなかった。
「はぁっ。火宮くん、今日の放課後残りなさい」
「えっ!」
「はい、座っていいよ」
うわぁ…。やってしまった。
ガクッと項垂れながら、ストンと椅子に戻ったら、隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
『やるね、編入生』
あれ?この声…。
「え!紫藤くんっ!」
「火宮くん?まだ何か」
「あ、やば。いえっ、なんでもありませんっ」
驚き過ぎて思わず大声を出しちゃったよ。
『まさか隣だったんだ』
『え!それ今?朝からずっといたんだけど』
プッククッ、と笑い出した紫藤に、俺は曖昧に微笑んだ。
遅刻ギリギリで飛び込んできてから今まで、まったく周りなんて見る余裕がなかった。
『ごめんー』
つまりはせっかく友達になったのに、俺は挨拶もしなかったやな奴だ。
『別に気にしてないけど。それよりうちの担任、見た目、温厚そうだけど、あれで意外とSだからね。気をつけた方がいいよー』
『え゛!Sって…』
『放課後の居残り、きっとエグいほどこき使われるよ』
クスクスと笑う紫藤は、俺をビビらせて楽しいのか。
チラリと見た、前方の教師は、ふにゃふにゃとした無害そうな笑顔で生物について語っている。
『見えないけど…』
『まぁ頑張って』
ふふ、と笑う紫藤も十分Sっ気があるな、と思ったのは俺だけか。
「なんか俺の周り、S率高くない?」
思わず呟いた瞬間、教師の鋭い目がキラリと向いた。
「火宮くん?」
「っ、ぁ…」
「そんなに居残りが好き?」
奉仕活動追加しようか?って?
「いえっ。すみませんっ!」
はぁぁっ。
今日はついてない。
ガックリと項垂れた俺は、思わずそのまま机に突っ伏し、今度は居眠り疑惑でさらに注意を受けてしまった。
「はぁっ、もうやってられない」
身体はダルいし眠いし、先生には怒られるし、放課後は居残りだし。
なんだか踏んだり蹴ったりの状況に、愚痴も漏れるというもの。
「クスクス、まぁなんだか今日はやけに気怠そうだけれど。お昼どうする?」
よければ一緒に、と声をかけてきた紫藤に、俺はハッと頭を上げた。
「豊峰くんっ!」
どこだ?と、キョロキョロしたところで、すでに豊峰の姿は教室内にない。
それもそうだ。もう4時間目が終わって、昼休みに入ってから数分経つ。
「いるわけないか。あーぁ。また中庭かな?」
「藍?」
「うん」
「昨日の今日で懲りないねー。でも藍なら、多分屋上」
クスクス笑いながらも、紫藤はどうやら反対する気はないようで。
「屋上があるの?」
「うん。まぁ使うのって、藍くらいだけど」
立派な学食も、綺麗な中庭も、カフェもラウンジも充実しているこの学校で、わざわざ屋上を昼食場所に選ぶもの好きは滅多にいないらしい。
「そうなんだ。ありがとう、行ってみる」
1人ならなお都合がいい。
俺は紫藤にお礼を言って、パッとベーカリーの袋を持って立ち上がった。
「今日は止めに行かないからね?気をつけてね」
「うん大丈夫。多分、今日は変なことにはならない気がするから!」
もちろん根拠は何もないけど。
にかっと笑って紫藤に手を振り、俺は屋上に向かって駆け出した。
「ってごめん…。屋上ってどこから行けるの?」
廊下に出てから数歩、向かう方向が分からなくて出戻った俺に、紫藤の爆笑が向いた。
「上る階段のところまでついて行くよ」
「ごめん、ありがと…」
あぁ恥ずかしい。
勢い込んで飛び出したのに。
やっぱり今日はついてない、と思いながら、俺はどうにか屋上に続く階段まで連れてきてもらった。
「じゃぁね」
「うん、今度こそ」
また後で、と手を振る紫藤に、大きく頷いて、俺は屋上への階段を上って行った。
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