266 / 719

第266話

あぁダルい。 腰が痛くて死にそうだ…。 「…くん。…宮くん」 まったくあのどS。 今日も普通に学校があるというのに、容赦なく抱き潰してくれて。 まぁでも最終的には俺も…。 「火宮くんっ!」 「うわっ、はいっ?!」 やばっ…。 授業中だった。 突然響いた大声に、俺は飛び上がる勢いで椅子から立ち上がった。 「こ、の、問、い。きみ、当たっているよ」 起きてる?と、冷たい目を向けてくるのは、ただいまの担当科目の教師で担任様だ。 「えーと…」 何なに? DNAがどうしたって? 完全に授業を聞いていなかった俺は、当然ながら、何を質問されているのかも分からず、目を泳がせるしかなかった。 「はぁっ。火宮くん、今日の放課後残りなさい」 「えっ!」 「はい、座っていいよ」 うわぁ…。やってしまった。 ガクッと項垂れながら、ストンと椅子に戻ったら、隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた。 『やるね、編入生』 あれ?この声…。 「え!紫藤くんっ!」 「火宮くん?まだ何か」 「あ、やば。いえっ、なんでもありませんっ」 驚き過ぎて思わず大声を出しちゃったよ。 『まさか隣だったんだ』 『え!それ今?朝からずっといたんだけど』 プッククッ、と笑い出した紫藤に、俺は曖昧に微笑んだ。 遅刻ギリギリで飛び込んできてから今まで、まったく周りなんて見る余裕がなかった。 『ごめんー』 つまりはせっかく友達になったのに、俺は挨拶もしなかったやな奴だ。 『別に気にしてないけど。それよりうちの担任、見た目、温厚そうだけど、あれで意外とSだからね。気をつけた方がいいよー』 『え゛!Sって…』 『放課後の居残り、きっとエグいほどこき使われるよ』 クスクスと笑う紫藤は、俺をビビらせて楽しいのか。 チラリと見た、前方の教師は、ふにゃふにゃとした無害そうな笑顔で生物について語っている。 『見えないけど…』 『まぁ頑張って』 ふふ、と笑う紫藤も十分Sっ気があるな、と思ったのは俺だけか。 「なんか俺の周り、S率高くない?」 思わず呟いた瞬間、教師の鋭い目がキラリと向いた。 「火宮くん?」 「っ、ぁ…」 「そんなに居残りが好き?」 奉仕活動追加しようか?って? 「いえっ。すみませんっ!」 はぁぁっ。 今日はついてない。 ガックリと項垂れた俺は、思わずそのまま机に突っ伏し、今度は居眠り疑惑でさらに注意を受けてしまった。 「はぁっ、もうやってられない」 身体はダルいし眠いし、先生には怒られるし、放課後は居残りだし。 なんだか踏んだり蹴ったりの状況に、愚痴も漏れるというもの。 「クスクス、まぁなんだか今日はやけに気怠そうだけれど。お昼どうする?」 よければ一緒に、と声をかけてきた紫藤に、俺はハッと頭を上げた。 「豊峰くんっ!」 どこだ?と、キョロキョロしたところで、すでに豊峰の姿は教室内にない。 それもそうだ。もう4時間目が終わって、昼休みに入ってから数分経つ。 「いるわけないか。あーぁ。また中庭かな?」 「藍?」 「うん」 「昨日の今日で懲りないねー。でも藍なら、多分屋上」 クスクス笑いながらも、紫藤はどうやら反対する気はないようで。 「屋上があるの?」 「うん。まぁ使うのって、藍くらいだけど」 立派な学食も、綺麗な中庭も、カフェもラウンジも充実しているこの学校で、わざわざ屋上を昼食場所に選ぶもの好きは滅多にいないらしい。 「そうなんだ。ありがとう、行ってみる」 1人ならなお都合がいい。 俺は紫藤にお礼を言って、パッとベーカリーの袋を持って立ち上がった。 「今日は止めに行かないからね?気をつけてね」 「うん大丈夫。多分、今日は変なことにはならない気がするから!」 もちろん根拠は何もないけど。 にかっと笑って紫藤に手を振り、俺は屋上に向かって駆け出した。 「ってごめん…。屋上ってどこから行けるの?」 廊下に出てから数歩、向かう方向が分からなくて出戻った俺に、紫藤の爆笑が向いた。 「上る階段のところまでついて行くよ」 「ごめん、ありがと…」 あぁ恥ずかしい。 勢い込んで飛び出したのに。 やっぱり今日はついてない、と思いながら、俺はどうにか屋上に続く階段まで連れてきてもらった。 「じゃぁね」 「うん、今度こそ」 また後で、と手を振る紫藤に、大きく頷いて、俺は屋上への階段を上って行った。

ともだちにシェアしよう!