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第268話
それからどれくらい、1人残された屋上でぼんやりとしていたのか。
「っ!やばっ…」
昼休み終了のチャイムが鳴り響いて、俺はまだ、昼食をとっていないことに気がついた。
「今のは予鈴だから、後5分っ」
とりあえず大急ぎでパンを口の中に詰め込んで、俺は慌てて教室に戻った。
ちょうど室内に駆け込んだ瞬間にチャイムが鳴り、ギリギリセーフ、と思ったら、すでに担当教師が教卓の前にいた。
「きみは、火宮くん」
「っ…」
セーフ、のはずなのに、ジロッと向けられる視線が痛い。
「編入早々、僕の授業に時間ギリギリで駆け込んでくるとは、やるね」
「う、すみません…」
やばい、この教師は時間に厳しい人なのか。
「成績優秀と聞いているけれど、そういう弛んだ態度は…」
色々と容赦しないよ?って?
「っ、いえその…」
別に舐めているわけではないんだけど、今日はたまたまちょっと…。
「まぁいい。とにかく早く席に着いて、授業の支度をしなさい」
「はい」
まずったなー、と思いながら席に着いた俺は、チラッと見た豊峰の席に、本人がシラッとした顔で座っているのを見て、思わずムゥッとしてしまった。
まぁそりゃ俺よりだいぶ早く屋上を出ていったけどさ…。
『ずるいなー、もう…』
クラスのみんなは多かれ少なかれ、注意を受ける俺をチラチラと気にするように見てくるのに。
豊峰だけは平然と前を向いたまま、こちらに一切の興味を払わない。
あんなの、どうやったら振り向かせられるんだろう…。
難問だ、と頭を悩ませながら、俺は今後の対策をあれこれと考え始めた。
もちろんその間、教師が進める授業内容は、まったく聞いていなかった。
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