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第269話

「ふっあー、ようやく終わった…」 5時間目、6時間目ともに、またまた上の空で時々注意を受けてしまいながらも、何とか今日の日課が終了した。 放課となった教室内で、俺は大きく伸びをする。 「っ…」 「ッ!」 ふと、仰け反るように伸ばした両手に、ドンッという衝撃を感じた。 あ、やば…またぶつかっ…。 慌てて手を下ろして振り向いたそこには、またもたまたま後ろを通り過ぎようとしていた豊峰がいて。 「あ、ごめん…」 デジャヴー、と苦笑しながら謝った俺に、チラリと向いた豊峰の視線は、今度は逸れることはなかった。 「あぁ」 「っ!」 「なんだよ?」 「いや別に!帰るの?」 「あぁ」 返事が返る! 素っ気ないけど会話が続く! 現金にも、パァッと明るくなっていく自分の顔を自覚した。 「そっか!じゃぁ俺も門まで一緒に…」 「あんた、居残りだろ?」 担任に呼び出し食らってたじゃん、と冷たい目をする豊峰にハッとなる。 「あぁぁ、そうだったー」 やばい、すっかり忘れていた。 「じゃぁな」 ご愁傷様、と言わんばかりに目を細めた豊峰が、それ以上は取り付く島を見せずに、スタスタと教室の出口に向かってしまった。 「どうしよ。呼び出し無視して帰っちゃう…?いやでもこんな初っ端から印象悪いのに拍車をかけるのも…あぁっ、豊峰くん!また明日っ!」 ウダウダと悩んでいる隙にも、豊峰の姿は消えていく。 仕方がないから俺は、すでに廊下に出てしまった豊峰の後ろ姿に声だけ放った。 「っ!」 軽く上げられた豊峰の手が、プラッと後ろ手に振られたのが見えた。 「義務でも進歩!」 嫌々でも渋々でも、初日の無視に比べたら、相手にされただけマシだと思おう。 よっしゃ、と座ったまま気合いを入れ直していた俺は、残っているクラスメイトが興味深そうにジロジロとこちらを見ていることに気がついた。 「あ…」 なんか目立っちゃった感じ? えへ、と愛想笑いを浮かべてみる。 「火宮くん、本当に?」とか。 「豊峰が何言もやり取りしてるの初めて見た」とか。 ザワザワと動揺が広がっていく空気を感じる。 「あのっ…」 思い切ってみんなの方に声をかけてみれば、ビクッと身を竦める生徒や、あからさまに目を逸らす生徒の姿が見えた。 「あ…」 そっか。やっぱり豊峰と関わることを、このクラスのみんなはよく思わない…。 どこかでは分かっていた状況を、実際に目の当たりにして痛感する。 「まぁしかも俺自身、担任に呼び出し食らうわ、授業遅刻しかけて悪目立ちするわ…」 豊峰のことがなくても引かれる要素満点か、と苦笑が浮かぶ。 それでも何人かは、まだ俺のことを値踏みするように見てきているのが分かって。 「ねっ、担任に残れって言われたの、このまま教室に居ればいいと思う?」 誰か分かるかなぁ、と首を傾げれば、恐る恐る、何人かが近づいてきた。 「あ、の、多分、生物準備室に行けばいいと思う…」 「そうなんだ!ありがとう」 にこっ、と笑顔を浮かべてみせれば、あからさまにホッとされる。 「で、悪いんだけど、その生物準備室ってどこ?」 それは特別教室室棟の…と説明してくれるクラスメイトに、俺はうんうんと頷く。 まだ俺との距離を測りかねている様子のクラスメイトに、俺の方も手探りで距離を測っていた。 「それで、居残りであることを迎えとガードに連絡し忘れ、延々と出てこない翼さんを心配したガードをパニックに陥らせ、こちらを大騒ぎにさせて下さったと」 にこりと微笑んでいる真鍋の鋭い目に射竦められる。 「う…その」 冷たい冷たいブリザードを吹き荒らした真鍋を目の前に、俺は蛇に睨まれた蛙だった。

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