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第285話※
「うー」
「ククッ、ほら、いつまで唸っている」
わしゃわしゃと、後ろから髪の毛に泡を立てられ、俺は唇を尖らせて拗ねていた。
あの後、すっかり腰を抜かしてしまった俺は、そのまま浴室に運び込まれて、あれこれと世話を焼いてくれる火宮に身を任せているところだ。
「わぷっ…」
「ほら、泡を流すぞ。目を瞑れ」
だーかーら、このどS!
言うより早くシャワーをかけるとか、本当、この人は。
「ん?どうした」
どうしたじゃないよ。
本当に、何で俺は、こんな意地悪な人が好きなんだろう。
ジーッと、浴室の鏡越しに後ろの火宮を見つめたら、うっかり余計なことまで思い出してしまった。
「翼?」
「っー!」
あんなっ、あんな、鏡の前でとか。
最後はべっとりと白濁を飛ばして汚してしまった鏡を思い出す。
淫らに乱れて、自らが抱かれる姿を見せつけられて…。
あんな恥ずかしいこと。
「クックッ、真っ赤になって。思い出したのか?」
淫乱、と囁かれる声が、サァサァと流れるシャワーの音にかき消されていく。
「っ、バカ火宮っ!」
本当、意地悪なんだから。
「クッ、これに懲りたら、今度からは行動する前に、1度思い止まって、後先考えてからにしろよ」
「うーっ…」
そう注意されると弱いけど。
「クックックッ、おまえは本当、無茶で、無鉄砲で」
「っ…」
「心配がつきない。だけど…」
サァァッ、とシャワーで優しく身体に落ちた泡を流してくれながら、火宮がふわりと微笑んだ。
「火宮さん?」
『そんなおまえに惹かれたんだから、俺の負けか』
「え?なんて?」
ザァッ、とわざと耳にかかるように向けられたシャワーのお湯が邪魔をして、火宮の声は上手く聞き取れなかった。
「ククッ、おまえが好きだということだ」
「はぁっ?」
ど、どうしたんだ、いきなり。
何この人…。
「クックックッ、なぁ翼」
「なんですか?」
「うちにも大きな姿見をつけるか」
「はぁっ?」
また何を言いだすんだ、このどS。
「もしまた言いつけを忘れて暴走しそうになったら、いつでもおまえの色っぽい姿を…」
「あーっ、あーっ、あーっ!」
耳を塞いで、わざと大きな声を出す。
ぐわんぐわんと、浴室に反響してうるさくても構うものか。
「ククッ、翼」
「あわわわーっ!…っていうか、もうしませんって!」
耳を塞いでいた手を離して、後ろを振り返って直に火宮の顔を見る。
「クックックッ、なんだ」
「っーー!」
なんだはこっちの台詞だから。
なんだその顔。
愛おしい、愛おしいと語る、蕩けそうなほど甘い瞳は。
「っ!」
やばい。
ズクンと下半身を直撃したその表情に、うっかり中心が熱を持ってしまった。
「ふっ、本当に、おまえはな」
「っーー!」
バレた。バレた。バレたーっ。
まぁそりゃ、全裸で風呂に入っているところなんだから、それこそダイレクトに反応は見えちゃうわけで。
「クックックッ、だから、飽きない」
「っ、あっ…んんっ」
例えどんなに無鉄砲で、心配ばかりかける俺でも。
「愛している、翼」
「っ、んっ、お、れも…」
愛してる。
例えどんなに意地悪でどSでどうしようもないあなたでも。
「ふっ、あっ、そこ、やだっ…」
「嫌?いい、の間違いだろう?」
カラーンと落ちたシャワーヘッドから、サァサァと噴水のようにお湯が踊っている。
ぐるんと向きを変えられ、対面に抱き抱えられた身体が、下から強く穿たれる。
互いの間を濡らすのは、俺の汗か火宮のそれか。それともお湯か、はたまた別の液体か。
繋がった場所からグズグズに溶けていき、どこまでが俺でどこからが火宮なのか、分からなくなってしまいそうだ。
「あっ、あっ、刃。じんーっ」
「クッ、翼…」
ぶわっとむせ返るような色香が立ち上り、あられもない嬌声が浴室の壁に反響して、狂いそうな快楽の中、俺の意識はゆっくりと闇に溶けていった。
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