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第287話
豊峰が去ってしまった後、俺も教室に向かった。
何気なく教室に一歩入った瞬間。
ザワッと教室内の空気が揺れたのを感じた。
え…?
一気に注目を集めたのが分かって、俺はその場に立ち止まった。
これは…。
そういえば昨日、親睦会の途中で挨拶もせずに消えてしまったんだった。
そのせいで?
挨拶と謝罪を口にしようとした瞬間、固まっていたクラスメイトのうちの数人が、ズイッと俺の前に進み出てきた。
「あのっ、火宮くん」
「え?」
ガチガチに強張った顔と、怯えを含んだ目が俺を見る。
「き、昨日なんだけどっ…」
「あ、うん。俺、途中で急に…」
ごめん、の言葉が出る前に、クラスメイトの声が俺の言葉を遮った。
「火宮くん、豊峰くんを追って行ったって」
「あー」
あのとき、後ろにいた人か…。
「俺たち、驚いて、でもそのままにしておくわけにもいかなくて、あの後追いかけたんだよね」
「っぁ…」
それってもしかして…。
「途中で見失っちゃったんだけど、なんか野次馬が集まっている場所があって…」
「っ…」
「その奥の路地から、豊峰くんと火宮くんと…」
あぁ、見てたのか。
どこかでやけに冷静に、納得している自分がいた。
「火宮くんたちが乗って行った車って、その、や、ヤクザの…だよね?」
そこまで見られていたんなら、もう何も言い訳はないよね。
チラリと見た豊峰は、自分の席でシラッと関係なさそうにしている。
だけど多分、この会話は聞こえているだろう。
「うん…」
にこりと笑って頷けば、青褪めていくクラスメイトたちの表情が見えた。
「あのっ、火宮くん、大丈夫だった?」
「へっ?」
「その、あれって…豊峰くんちの…なんだよね?火宮くんは、その、巻き添えで、連れてかれちゃったっていうか…」
あぁそうなのか。
はたから見たあの光景は、そんな風に見えるのか。
綺麗に歪んだ事実に苦笑しそうになりながら、スゥッと何気なく豊峰の方に視線を向けた俺は、「よかったな」と、冷たく目を細めた豊峰の表情を見て固まった。
「っ!」
「火宮くん?」
何それ…。
都合良く勘違いしてくれてるんだから、俺のせいにすりゃいいじゃん、って?
何その顔。
俺は何も言わないから、利用すれば?って?
「冗談じゃないっ!」
「えっ?火宮くん?」
「ふざけないで!」
俺の思いをなんだと思ってる。
ムカつく。
反射的に叫んでしまった俺の目の前で、クラスメイトがビクンと固まり、遠巻きに見ていたみんなが、どよっと動揺したのが分かった。
「あ、ごめん。大きい声出してごめん。だけど…」
キッ、と睨んだ豊峰の顔が顰められる。
何を言い出す気だ、とその目が咎めるように見ているのは分かるけど。
「あの車、俺のとこのだから」
「え…?」
意味を取りかねた、という表情をしたクラスメイトの顔が、目の前にあった。
「あれは俺を迎えに来た車で、降りて来た人たちは、俺の知り合いなんだ」
「え、それって…」
「うん。つまり俺もね、ヤクザの関係者なんだ」
ニッ、と笑って言ってやった俺から、ジリジリと怯えたように下がっていくクラスメイトたちが見えた。
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