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第295話

「いーやー、本当っ、反省してますっ。もうしないっ、もう2度としませんからーっ!」 叫べど暴れど一切無駄で、俺はとうとう会長室に連れて来られてしまった。 隣には俺の腕を掴んで離さない真鍋と、ニヤニヤ顔で楽しげについてきた夏原がいる。 「なんだ、騒々しい。翼、何をそう騒いでいる」 執務机の向こう側の社長椅子。そこにゆったりと座って、何やら書類を眺めていた火宮の視線が、ゆっくりと巡らされた。 「真鍋?」 俺の腕を掴んだ真鍋の手を見て、火宮の眉が寄る。 「これはお逃げになられないようにというだけです。他意はありません」 「逃げるとは、一体今日は何をしたんだ、翼」 また真鍋を怒らせて…と溜息をついている火宮に縋る。 「助けて下さいっ、火宮さん。何って、今日はちょっと授業をサボっちゃって…まぁ、また遅刻したりとか、立たされたりとかしちゃいましたけど…」 だんだん呆れた顔になっていく火宮に、だんだんと声が萎んでいってしまう。 「それのどこが『ちょっと』なのですか。前回もあれほど言い聞かせたというのに…」 「だって…」 「今日という今日は許しませんよ?性懲りもなく会長のお名前を汚して…」 ひぃぃ、怖い、怖い、怖い! 隣から漂う冷気に、心臓が縮み上がる。 「会長」 「なんだ」 「今日は鞭の使用も許可していただきますよ」 「え゛!嘘でしょ…」 無理!嫌!それだけは勘弁して。 ウルッと潤んでしまった目を、必死で火宮に向ける。 「はぁっ…。落ち着け、真鍋。まぁとりあえず翼にも理由や言いぶんがあるだろうから」 まずはそれを聞いてからでも、とフォローしてくれる火宮にも、真鍋の冷ややかな空気は緩まない。 「ですから会長がそうやって甘やかすから…」 「だからと、鞭は駄目だ、鞭は。仕方がない、後で俺からきちんと言って聞かせるから…」 あぁ、頼もしい火宮様、恋人様。 真鍋の魔手から救ってくれるんだ! パァッと輝きかけた顔は、隣の真鍋がブワッと再び冷気を放出したのに気づいて、凍りついた。 「そうおっしゃって、後でなぁなぁにしてしまうおつもりでしょう?」 俺には甘い、と思われている火宮に、こと仕置きに関しては、真鍋の信用はない。 「おまえな…」 「会長」 「ったく、この裏ボスめが」 あれ?この流れ、やばくない? 火宮がハァッと大袈裟な溜息をついて、なんだかその目に諦めが浮かんでいる。 「仕方がない。翼、残念だが…」 「え!」 「仕置きだ。鞭よりはマシだと思え」 な、なに…。 スッと執務机の陰に火宮の顔が消えたかと思ったら、机の下段の引き出しから、何か取り出したらしい。 ポイッと放るように机の上に出されたそれは、何やら怪しげなパッケージに包まれた怪しすぎる代物で。 「わぉ。なかなか意地悪ですね。大っきいやつ、そこそこのサイズありますよね、そのアナルパール」 「っ…」 クスクスと楽しそうに笑った夏原の声に血の気が引く。 「シマの風俗店に卸すサンプルだと。夏原もいるか?」 まだあるぞ、って…なんていう会話をしているんだ、この人たちは…。 「クスクス、能貴、使わせてくれる?」 「馬鹿をおっしゃい」 真鍋の呆れた声と同時に、手が緩んだ。 チャンス! 「っ…」 「翼さん?」 「馬鹿者…」 何その反射神経! 見た目頭脳派のくせして、詐欺だ! 咄嗟に逃げ出そうとした身体はあっさりと捕まり、さらに温度を下げた冷気と、ますます呆れた火宮の目に晒されて、俺は堪らず涙を浮かべた。 「ふぇぇ、やだぁ…」 「あーらら。可哀想に。これから火宮翼くんは、この場でお尻を出されて、お尻の穴を解されて、そこにパールをいっぱい入れられてお仕置きされちゃうんだね」 「っ…」 夏原の言葉で、そのことを想像してしまったからたまらない。 羞恥とか屈辱とか、ムズムズとしてしまったお尻がキュッと締まる。 「クックックッ、なんだ翼。夏原に言葉責めにされて感じたか?」 俺以外にそれは許せないな、って…。 「感じてなんかっ…」 「ククッ、真鍋。そいつをこっちに連れて来い」 「かしこまりました」 え…。 「嘘でしょっ?嫌、嫌っ。やめてっ、火宮さ…ッ」 まさか本当にする気なんだろうか。 全力で暴れる身体も虚しく、真鍋にズルズルと執務机の向こう側まで引き摺られて行ってしまう。 「はぁっ。ったく、俺は、俺も学生時代は授業などサボりまくっていたクチだから、あまり偉そうには言えないし、多少のサボりくらいは、可愛いやんちゃだと思うけどな」 「じゃぁ…」 パァッと輝く希望は、一瞬で地に落ちる。 「なんで真鍋にバレたんだ」 上手くやれよ、と呆れて笑う火宮が、俺を真鍋から引き取る。 「っ…それは」 「ほら翼、下をおろして、机に手をつけ」 「っ!」 ぐいっ、と腕を引かれたのは、執務机の火宮の横で。 「真鍋、夏原。後ろを向いていろ」 っ、本当に? 本当に、真鍋たちがいるこの場で、俺はお尻にこんな玩具を入れられちゃうの…? 「ふぇっ。ぐすっ…火宮さん」 嫌だよ、と必死で縋る目を、火宮の眇めた目が見返してくる。 「じんー」 情けなくべそまでかいてしまう。 それを見た火宮の口元が、ゆっくりと弧を描いた。 「クックックッ、なんてな。するわけないだろう?」 ニヤリ、と意地悪く笑った火宮の唇が、チュッと音を立てて、俺の目元の涙を吸い取っていった。

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