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第303話

そうして雑談をしていたらあっという間に朝のホームルームの時間がやってきて、そのまま1時間目のクラス活動の時間になった。 今日はなにやら、再来月に迫っている、体育祭の委員決めをするらしい。 再来月といっても、体育祭は6月の上旬で、実質もう2ヶ月もない。 「はい、誰か立候補」 教卓の前で仕切っている教師から、みんながみんな、いそいそと視線を逸らす。 体育祭実行委員などというのは、名ばかりの、要は雑用係。そんな面倒な係、もちろん誰も進んでやりたがるわけがない。 俺も例に漏れず、そっと息を潜め、目立たずひっそり気配を断つ。 「まぁそうなるなー。じゃぁ手っ取り早くクジ引きといくか」 にこりと笑って、サクッと教卓の下から箱を取り出した担任の、用意周到なこと。 始めからこうなることがわかっていたような態度は、どうやらこれは毎年のことらしい。 「はい、女子はこっち。男子はこっちから。赤二重丸がついていたやつが大当たりー」 タンッ、と教卓の上に置かれた箱を見て、ブーブーとブーイングが上がる。 「公平平等、文句なし。あぁ、ちなみに紫藤は生徒会執行部役員だから除外でいいな?」 あっさりとした担任の言葉に、クラスメイトたちはブーブー言いながらも頷いていた。 「はい、そうと決まればさっさと引けー」 担任の声に、我先にと立ち上がる生徒、残り物には福があるとばかりに箱の前が空くのを待っている生徒。 それぞれが好きに行動を開始した中、俺はほどほどの、中間あたりで立ち上がり、早くも遅くもなく列に並んで、クジを1枚引いてきた。 席に戻って、ゆっくりとその紙を開く。 そこに…。 「はい、男子は火宮、女子は佐々木」 嘘でしょ…。 しっかりばっちり赤二重丸のついた紙に、ガックリと肩が落ちた。 「ちなみに今日の放課後、委員会の集まりがあるから出席するように。それから委員が決まったところで、早速きみたち2人が仕切って今度は出場種目決めをしてくれ」 以上。僕は内職するからー、とさっさとデスクに引っ込んでしまった教師にガックリしながら、俺は渋々席を立ち上がった。 「クスクス、クジ運悪いねー。頑張って」 「紫藤くん…」 隣でヒラヒラと手を振っている紫藤がからかい混じりに激励してくれる。 「まぁ僕も執行部で委員会には参加するから、よろしくね」 「そっか!うん」 生徒会執行部は、実行委員会の上部組織になるわけだ。 「しかし、編入したてで、勝手のわからない俺でいいわけ?」 みんなは去年1度経験している体育祭だから、様子とかは知っているだろうけど、俺は初めてのことなのに。 「ま、なんとかなるよ」 「うん…。まぁなっちゃったからには、やるしかないけど…」 不安だ、と思いながらも、とりあえず教卓の前まで歩いて行った。 「あ、俺、火宮。えっと、佐々木さん?だったよね。その、よろしくね」 同じく前に出てきた女子の委員にとりあえず話しかけた瞬間、ビクリと怯えたように一歩引かれた足が見えた。 うわー、これ、前途多難だ。 やっていけるかな、とますます不安を大きくしながら、ゆっくりとみんなの方に向けた視線の中で。 グッ、と親指を立てて、ニッと笑ってこっちを見ているノリとタクトが見えた。 そ、うだな。 なんとかなるか。 うん、と1つ頷いて、俺は大きく深呼吸をして、クラスに向かって口を開く。 協力してくれる人はいる。 ノリとタクト、それから態度には見えないけど豊峰も、執行部を兼ねているけど紫藤だって。 味方はいる、と思えるだけで、かなり心強くなって、俺は、クラスメイトたちを見回しながら、出場種目決めを始めていった。

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