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第308話
翌日の放課後。
俺はまたも実行委員会の集まりのため、浜崎にその旨の連絡を入れていた。
「翼、今日も残り?」
「うん。委員会」
「うへぇ。大変だな。和泉ももう生徒会に行ったし」
俺は帰るわ、と豊峰がプラプラと手を振っている。
クラスのみんなも、寄り道の相談を始めたり、部活に向かったりと、思い思いの行動をしている。
「なんだかなぁ」
俺もできれば、みんなと寄り道とかに行って、友好を深めたいところなんだけど。こうも委員会が忙しいなんて、予想外もいいところだ。
「よっ、つー。今日も委員会?」
「あっ、タクト。うん」
「そっかー、頑張れよ」
「うん。タクトは部活?」
1人で、何やら大きめのバッグを持っている。
「おぅ。柔道部」
「え、柔道?」
「うんうん。これでも黒帯だぜぃ」
ニッ、と笑って親指を立てているタクトは、そんな特技があったのか。
「すごい」
「へへっ。翼は?何か部活入るのか?」
「部活か…」
考えたこともなかったな。
「もしよければ、柔道部来てみるか?見学だけても歓迎だぜ」
「え!柔道?無理無理無理」
どう見たって俺、弱そうでしょ。
華奢だし非力だし、ちょっと武道っていうタイプじゃない。
「そうか?柔よく剛を制す、って言うくらいだし、体格とかは関係ねーぞ」
「うーん、でも遠慮しておくよ」
あはは、と愛想笑いを浮かべる俺には、体格以外にももう一つ問題がある。
火宮さんの許可が、絶対に取れないと思う…。
タクトには説明できないけど、あの嫉妬深くて独占欲の強い、恋人兼保護者様。
部活をやるとなると、一応火宮に聞いてみないとならないし、そこで柔道をやりたいなんて言ったら、全力却下されるに決まっているんだ。
なにせ柔道といえば、組手で相手と絡むし、なにより寝技というものがある。
「俺以外の男とベタベタ触れ合うつもりか?」「俺以外の男に押し倒されたらどうなるか分かっているよな?」と、技だろうが試合だろうが、言い掛かりをつけて迫ってくる火宮が目に浮かぶ。
「つー?」
「あ、いや、そういうことだから」
何がそういうことなのかわからないだろうけど、タクトは首をひねりながらも納得してくれたらしく。
「そっか。まぁ無理強いしてもな。じゃぁ俺は部活行くわ。つーも委員会、適当に頑張れよ」
「うん、ありがと。また明日」
「おぅ、バイバイ」
颯爽と去っていくタクトを見送り、俺も委員会が開かれる会議室へと足を向けた。
会議室では、すでに委員会が始まっていたらしく、何やらみんなが小グループになって活動していた。
「あー、えと…」
クラスごとなのかな、と思いつつ、女子の委員の佐々木を探したところに、ふと違和感のある視線を感じた。
「っ?!」
敵意、とは違う。だけどあまりいいものではない、ジリジリと身を焼くような視線。
誰?と見回した室内で、その発信源が見つからない。
「火宮くん?どうしたの」
不意に、入り口を一歩入ったところで固まっていた俺に、紫藤が近づいてきた。
「あ、紫藤くん…」
「遅刻ー。サボりかと思ったよ」
クスクスと笑う紫藤は、言葉ほど俺を責めてはいない。
「あは、ちょっとおしゃべりしてて。それより…」
誰かがこちらを見ている、と言おうとした声は、すでに跡形もなく消えてしまっている視線の気配に、飲み込むしかなかった。
「火宮くん?」
「あ、いや、なんでもない」
「そう?」
「うん、それより、これ、どうやって分かれているの?」
室内に分散しているグループの分け方がわからない。
「あぁ、色々と係を決めたんだ。ま、生徒会が勝手に、クラスで振り分けちゃったんだけど」
「そうなんだ。で、俺は」
「えっと、うちのクラス委員は…今日はあそこかな。必要備品をリストアップする係」
数人が集まっているところを指差す紫藤に頷く。
「本当だ。佐々木さんがいた」
「うん。3年が主に仕切ってくれるだろうから、そこのリーダーに従ってればいいよ」
困ったら声をかけて、と微笑んで、紫藤は遠くから呼ばれた声に応えてそちらへ行ってしまう。
「ありがとー!」
お礼を言いつつ、俺の所属係だという場所に向かう。
その一瞬、またも不快な視線に射抜かれたような気がした。
っ…。
けれども再び、その視線はすぐに消えてしまう。
な、なんだろう…。
気持ち悪い、と思いながらも、とりあえず所属係の中に入っていく。
そこでは、遅刻したことをだと思うのだけど、上級生にジロリと睨まれてしまった。
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