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第310話
翌日も、委員会の集まりに参加していた俺は、たまたま側を通りかかった上級生に呼ばれて、そちらに顔を向けた。
「なぁ、えっと、火宮、だよな?」
「え?あ、はい」
「そっち、人手余っていそうだから、ちょっとこっちを手伝ってくれねぇ?」
チラリと向けられるのは、俺の係が作業している机で。
俺は確かに手が空いていて、同じ係の人が作業をしているのをぼんやりと眺めていただけで暇だった。
「いいですけど、じゃぁ…」
「おい、こいつ1人、ちょっと借りてくぜ?」
うちの係のリーダーに言った上級生が、来いよ、と顎をしゃくる。
テクテクとそれに着いて行った俺は、会議室の隅にたどり着き、1枚のプリントを渡された。
「これ」
「え?あ、はい」
反射的に受け取った紙を見下ろす。
「そこに書いてある備品とか道具類、在庫があるか、数が揃っているかを確認するんだ」
「はい」
「とりあえず体育倉庫に、一緒に来てもらえるか?」
「分かりました」
なかなか面倒くさそうな仕事だなー、と思いながらも、会議室を出て行く先輩に着いて行く。
渡り廊下を抜け、クラブ棟を通り過ぎ、体育館と武道場の脇を進んだ、人気のない場所に、その体育倉庫とやらはポツリとあった。
「あそこですか?」
目の先にあるいかにも倉庫といった、引き戸が1つあるだけのシンプルな建物を指差す。
「あぁそうだ。鍵は開けてあるから、中に入ってさっそく…」
先輩に促されて、ギギッ、と音のする重い扉を開ける。
「うわー、暗くて埃っぽい…」
外の明るさに慣れていた目が暗さに馴染むまで、建物内に一歩入ったところで目を慣らす。
ぼんやりと、中に収納されたマットや跳び箱、カラーコーンやボールなどの輪郭が見えてきた、と感じた瞬間。
「おら、さっさと入れ」
「えっ…ッ、先輩っ?」
後ろに立っていた先輩に、いきなり背中を突き飛ばされた。
「うわっ…」
無防備だった俺は、その勢いでつんのめって、思い切り前に転ぶ。
幸いそこにはマットがあって、それに突っ伏したおかげで怪我はなかったけれど、ブワッと上がった砂埃が煙たい。
「ちょっ、何す…」
慌てて起き上がって、先輩を振り返って文句を言おうとしたそのとき。
ガラガラ、ピシャッ、と、体育倉庫の扉が閉じられた。
「え…?」
呆然とする目が、パチパチと何度も瞬く。
ますます暗くなった倉庫内には、裏側にある、格子のついた明かり取りからの光しか射さない。
それでもぼんやりと薄暗がりに慣れてきた目が、倉庫内にある数人の人の気配と人影を捉えた。
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