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第312話

✳︎暴力描写があります。苦手な方はご注意下さい。 「ひっ…」 ニヤァッ、と気持ちの悪い笑みを浮かべた男が、俺の両足の抵抗を防ぐようにして膝をつく。 足首付近に乗るように座られてしまえば、足の自由はそれだけで奪われてしまった。 「嫌、だ…やめて」 全力で怒鳴ったつもりの声は、湿った弱々しい声にしかならなかった。 「へぇ?さすが。男の煽り方がよく分かっているじゃねぇか」 ジュルッと舌舐めずりをした男の手が、ズボンのベルトにかかる。 「嫌っ!嫌だぁっ…」 煽ってなんかない。 本気で本気で嫌なのに。 カチャカチャとベルトが外されていく音がやけに大きく耳に響き、俺はたまらず、ギュッと固く目を閉じた。 「っ…」 どこで何を間違えたんだろう。 よかれと思って素性を暴露したことが、まさかこんな事態を引き起こす結果になるなんて。 俺が、悪かったのかな。 もっともっと考えて、ここまで考えて行動しないとならなかったんだろうか。 「ごめっ、なさい…。ごめんなさい、火宮さ…」 このことが知られたら、きっとまたあなたを傷つける。 このことを知ったら、あなたはまた、闇色を濃くしてしまう…。 「っ!駄目だっ!」 まだ諦めたら駄目だ。 火宮のために。 俺は俺を守らなくちゃいけない。 グッと力を込めた両足と両腕。 ブンブンと振り回す頭が、腕を押さえる男の手に触れた。 「離せっ…」 ガブッと噛み付いてやった男の手。 ビクッと怯んだ男の手が一瞬緩む。 チャンスか、と思って目を開けた瞬間。 バシィッ、と頬が張られて、俺は驚きにそのまま目を見開いて固まった。 「くそっ、こいつ…」 痛い…。 ジンジンと頬に痺れるような痛みが続く。 ブワッと勝手に湧いた涙が、ボロボロとその頬を伝い落ちる。 「あーぁ、泣いちゃった。おまえ、酷ぇな」 「だって噛みつきやがったんだぞ」 「ぷくくっ、油断してるからだ」 ゲラゲラと、下卑た男たちの声が聞こえる。 駄目だ…敵わない。 一瞬奮い立ったはずの気力が、その声に小さく萎んでいく。 だって抵抗すればしただけ痛い目を見るんだ。 この人数に対して俺は1人で、しかも体格も力も、どう足掻いても敵わない。 「っく…離してよ、やめて…」 紡ぎ出した声は、情けなく震えた小さな懇願になり、諦めがジワジワと俺の全身を満たしていった。 「おい、それ寄越せ」 「はぁっ?んなことしたら、こいつのイイ声が聞こえなくなるじゃねぇか」 「噛みつかれるよりマシだろ」 「えー、上の口も使わねーの?」 いつの間にか脱がされていたズボン。 下着もいつ剥ぎ取られていたのか。 俺が噛み付いた男が、その下着をグイと口の中に押し込んできた。 「はぁ?おまえ、勇気あるな。これに、飛ぶ前に突っ込んだら、ぜってぇ噛みちぎられるぞ」 「だからって脱がせた下着で口を塞ぐとか、ゲスいー」 俺の、パンツ…。 酷い屈辱にますます涙が溢れる。 必死で舌で押し出そうとするけれど、ゴワゴワと口の中いっぱいに押し込められた布は、そう簡単に吐き出せない。 「ふぐぅ…んぐ…」 湧き上がる嫌悪感と苦しさに、ボロボロと涙が溢れた。 グイッと両足を開いて持ち上げられ、羞恥と恐怖に頭が真っ白になった。 「ふぅん、思ったより綺麗な色をしてんだな」 「ほぉ、これは…いけるな」 「へぇ、男の尻なんてどんなものかと思ったけど。さすが、売りやパトロン抱えて稼いでるだけはあるじゃん」 下品な声と共に、ねっとりと、いやらしくておぞましい視線をとんでもない場所に感じる。 「でも男って濡れねぇだろ?このまま突っ込むのか?」 「ばぁーか、まずはこうして軽く解してやんだよ」 「ふぐっ、ぐぅぅっ…」 蕾に触れた、知らない指。 火宮のじゃない、もっと細くて冷たくて、不快感しか湧いてこない他人のそれ。 引き攣り震える俺に構わず、その指先がツプッと蕾の中に押し込まれた。 「ふぐーーっ!」 痛い。 気持ち悪い。 怖い、悔しい、苦しいっ…。 バタバタともがく足は、両側からそれぞれ別の男に押さえられ、抵抗はただ無意味に腰が浮くだけにしかならなかった。 「ふぅん、やりまくってるっつー割には、キツくてよく締まってる」 「ふぐぐぐっ…」 「まぁヤり慣れてんだろうから、適当でいっか」 ズッ、と指を一気にナカに突っ込まれ、遠慮も容赦もなく、グルッと中で回される。 痛みと不快感しかない、前戯にすらならないそれに、意識が遠のいていきそうだ。 「おい、それ、扱いてやれよ」 「上も剥いて、乳首でも可愛がってやれば?慣れてんだし、感じんだろ?」 「なぁ、やっぱり上の口も使わねぇ?もし噛んだら刻む、っつえば、抵抗できねーだろ」 ニヤァッと笑った男の1人の顔が見えた。 カチャッと音がして、キラリと光を弾いたあれは、ナイフ…? ピタリと頬に触れた、冷たい金属の感触に、鳥肌が立つ。 「しょうがねぇなぁ。自己責任でやれよ?」 「了解」 ウキウキとした男の声に続いて、ズルズルと口の中から布が引き出される。 「っ!嫌っ、いやぁぁぁっ!誰かっ、誰か助けっ…っう!」 「だからうるせぇ、っつってんだろうが。てめぇはこれでも咥えとけ」 一瞬の隙をついて叫んだ瞬間、またも頬を張られた。 その衝撃で口の中を噛んでしまったのだろう。鉄の味が口内に広がる。 「歯を立てたら刺すかんな?」 スッ、と喉元に当てられたナイフの刃先だろう感触に、ビクリと全身が強張る。 鼻を摘まれて、苦しさに開いた口に、情け容赦なく男の露出した性器が押し込まれた。 「う、ぐ、ぐぅ…」 臭い、気持ち悪い、嫌だ…。 ブワッと溢れた涙が滝のように流れる。 下では別の男がグリグリと蕾の中を掻き回し、すでに2本、3本と指を突っ込まれているのが分かる。 乳首は快感の欠片も得られないような乱暴さで、ぎゅむっと摘まれ、グニグニと揉みしだかれて痛い。 「う、ぐぁ…ぐぁぁっ…」 嫌だ、嫌だ、嫌だ…。 いっそ刺してくれ。 火宮以外に好きにされて、身体を汚されてしまうくらいなら俺は。 俺は…。 ヒタリと首元に触れるナイフに、昏い希望を見出して、口の中のおぞましい性器を噛み切ってやろうと、狂気にも似た覚悟を決めた瞬間。 ガァンッ!と響いた、体育倉庫の扉に何かがぶつかったような派手な音と共に、「翼っ!」と叫ぶ、誰かの声が聞こえた。

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