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第313話

「誰だっ?」 「落ち着けよ。鍵はかけてあるし、外からの鍵は俺が持ってる」 「でも…」 途端に男たちに動揺が広がる。 けれども一瞬動きを止めた男たちは、ガタガタと扉を揺らすだけの闖入者に、余裕の笑みを取り戻す。 「はっ。ほら、入って来れはしねぇよ」 「そんなことより、ケツ、もう解れたんだろ?さっさと突っ込んでやろうぜ」 「おら、上の口も休むなよ」 「俺、手ぇ借りよ。ほら、握って扱けよ」 噛みちぎってやるタイミングもすっかり逃され、結局四方八方から突き出される性器が増えただけだ。 俺を辱めることに興奮し、犯すことに熱くなった雄臭さが充満し、吐き気がする。 「ふ、ぐぅっ…」 助けがすぐそこにいるのに。 扉1枚がものすごく厚い。 すぐ外には光の溢れる世界があって、俺を助け出そうとしてくれている誰かがいるのに、俺は男たちに組み敷かれたまま、薄暗い倉庫の中で好き勝手に弄ばれている。 「うぐ、う、ふっぅっ…」 苦しい息の下から嗚咽が漏れて、ツンと鼻の奥が痛んだ。 「う、ぇっ、えぐっ…」 無理なら殺して…。 助け出せないなら、倉庫に火を放ってでもいいから、俺を男たちごと焼き殺してよ。 火宮以外に穢されるくらいなら。 いっそ俺の身体が、火宮しか知らないままで、今。 「翼っ!いるんだろっ?今助けるからなっ!」 ガァンッ、と再び倉庫の扉が派手に鳴り、俺はハッと弱気になった自分の目を覚ました。 「うぐぐっ…んんーっ!」 豊峰だ。 助けて!助けて、助けて! 性器を捻じ込まれて不自由な口で、必死に叫ぶ。 「火宮くんっ!」 「つー!」 「翼さんっ!」 紫藤だ。 タクトだ、浜崎だ。 みんなが今、すぐそこにいる。 俺はまだ、諦めちゃいけない。 「んぐーっ!」 出てけ、くそ不味い性器め。 舌で必死に押し返すそれが、わずかに怯んだ。 「んんっ…」 離せ。俺の手に押し付けた、その汚いものを引け。 後ろも、やめろっ。触るなっ。 ジタバタと、再び抵抗を思い出した俺は、精一杯の力を振り絞る。 ピリッと首元が痛んだけれど、そんなことに構うものか。 だってほら、ナイフが当たって少し肌が切れたんだろう?そこから、タラリと血が伝う感触がする。 その程度で、ビクッと驚いて手を引くあなたに、俺を刺すことなんかできやしない。 「藍これ、マスターキー!」 「和泉早く!」 ガチャガチャと、鍵をいじっている音が響く。 「チッ、生徒会役員め。職権濫用したか」 「どうする?開けられちまうぜ」 「くそっ、先に乱入者をボコってから…」 パッ、パッと離れていく男たちの手に、わずかに気が緩んだ瞬間。 ガラガラッ、と派手な音を立てて倉庫の扉が開き、逆光になったいくつもの人影が飛び込んできた。 「くそっ、眩し…」 「うわっ、真っ暗…」 「怯むな、行け!」 「見えねぇ目はいらねーな」 バタバタと入り乱れる足音が響く。 差し込んだ陽の明るさに怯む男たちと、明るさから一転した暗さに馴染まない救助の人たちの声が聞こえる。 けれども外から来た豊峰たちのほうが、ちょっとだけ強くて、そしてずっと場数慣れしていた。 「うっ」 「ぐっ…」 「な、なんだよこいつらはぁっ…」 ドカッ、バキッ、と吹き飛ばされ、沈められていく男たちの悲鳴が響く。 見れば浜崎と豊峰は、目を閉じたまま正確に敵の男たちを退治していっている。 「強…」 紫藤は紫藤で、恐れをなして逃げ出そうと駆け出している男に向かって、籠から取り出したハンドボールを、器用にその足元に転がしているし。 しっかり乗り上げて、すってんころりんと尻餅をついたそれは、すごく痛そうだ。 その脇ではタクトが派手に男を背負って放り投げている。 多分それは、柔道の技の背負い投げだ。 「っ…」 マットの上から、唖然とその様子を見ている俺の目の先で、あれよあれよという間に、男たちは全滅し、呆気なく豊峰たちに鎮圧されてしまった。

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