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第327話

「ヒィィィッ…」 掠れた悲鳴が聞こえて、俺はストンと視線を落とした。 鼻から、目から、口から、そして股間から。様々な液体を垂れ流した先輩が、焦点の合わない目を彷徨わせていた。 地面と垂直に突き立ったナイフは、先輩の喉元から横に数センチ。 首の皮1枚を微かに傷つけて、硬いアスファルトを削っていた。 支えを失ったナイフが、カラーンと倒れる。 っ…。 許せない。 だけどこれ以上もう何も、俺はあなたたちに奪わせはしない。 「翼…」 謝って…。 この、哀しく強く、優しい人を、あなたたちなんかに、闇に堕とさせはしない。 「翼さん…」 謝って下さい…。 あなたは最低な行為を目論んで、俺のことを傷つけた。 あなたたちはそれに共謀して、火宮にこんな虚しい刃をふるわせようとした。 謝って…。 火宮を汚す、その前に。 だから…。 ーー謝れっ。 ただ助けを乞うだけの、ひたすら赦しを求めるだけの前に。 ポタリ、ポタリと落ちた涙が、先輩のボコボコになって歪んだ顔の上に、いくつもいくつも流れていった。 あなたたちさえっ。あなたたちさえ、あんなことを企まなかったらっ…。 グッと掴み上げた先輩の胸ぐらを、ガクガクと前後に揺さぶる。 謝って…。 ボロボロと涙を流し、唇を震わせて泣く俺の耳に、微かな声が流れ込んできた。

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