336 / 719

第336話

「あー、終わった、終わった。翼、今日は委員会ないんだろ?」 無事、1日の日課が終了したところで、豊峰がフラリと俺の席の側まで来た。 「このまま真っ直ぐ帰るのか?」 『うん、特に予定はないしね』 とりあえず、中間テストも近いことだし、適当に課題が出ている教科の教科書を鞄に詰めながら、俺はサラリとボールペンを走らせた。 「なぁ、もし暇だったら、寄り道してかねぇ?」 ファーストフードとか、と言う豊峰に、俺は少し考えた後、コクンと頷いた。 「っしゃ。じゃぁ迎えの連絡とか」 『うん、メールする』 早速電話帳に登録しておいた真鍋のアドレスを開き、豊峰と遊んで行く旨を連絡する。 そうして、ポチポチとメールを打っていたら、リカとユカと、もう1人の女子が近づいてきた。 「ねぇ、これから遊んで帰る感じ?私たちもいーれて」 にこっ、と、放課後仕様なのか、朝より格段にレベルアップしたばっちりメイクで、リカが笑った。 「あー?翼、どうする?」 『俺は別にいいけど』 遊ぶって言っても、街ブラしてファーストフードだけど、と豊峰が言うのに頷きながら、俺はリカを見る。 「やぁった。それじゃまぁ、よろしく」 行き先は任せる、とピースしながら、嬉しそうにリカが笑う。 『うん。じゃぁ行こうか』 真鍋にメールを送り終わった俺は立ち上がり、なんだかちょっとした集団になったグループで、放課後の街へ繰り出した。 ✳︎ 「あっ、ねぇねぇ、記念にさ、プリクラ撮らない?」 たまたま通りかかったお店で、たまたま目についたらしい機械を指差して、リカが提案した。 「はぁ?このメンツで?」 やだよ。とつれない豊峰に、リカの目が吊り上がる。 「ノリ悪いなぁ。翼くんは、撮ってくれるよね?」 豊峰が駄目なら俺の攻略か。 曖昧に苦笑しながら、俺はどうしようかと豊峰を見る。 「はっ、翼が頷くわけねぇじゃん。だって女子と映ったプリクラなんて、あのお方に見られてみろ?」 あー、それはなんだか怖いことになりそうだな。 豊峰も、1度しか会っていないのに、よく分かるな。 「あのお方?」 「カ、レ、シ」 悪戯っぽく笑う豊峰に、俺は思わず顔を引攣らせてしまう。 けれどもリカは、あっけらかんと笑って、なるほどと頷いた。 「そういえば、なんだかかんだかの会長のパートナーとかなんとか」 ケロッと言うリカは、その辺りに偏見はないのか。 「そうそう。これまた、すっげぇ美形の男だぜ」 幹部様にも負けない、と悪戯っぽく笑う豊峰に、リカの目がまん丸になる。 「え!あの麗しき幹部様以上?」 「ヤクザの頭だけど」 「それでも一目見てみたいー!」 キャァキャァとはしゃぐリカは、豊峰とも自然に接していて、俺が男と付き合っているというのも普通に流している。 変わっていく。 編入当初の、あのどうしようもなく違和感しかなかった空気が。 変わっていく。 豊峰も、そして周囲も。 それは決して悪い変化ではないだろう。 そう思う心が、ほわんと温まる。 「じゃぁ1枚だけだぞ」 「まぁそう言わず」 「翼。おーい、翼」 え…? いつの間にか、プリクラを撮る流れになっていたらしい。 機械の前から、コイコイと手招きする豊峰たちの方に近づきながら、俺はぼんやりと火宮のことを思い浮かべた。 あー、これ、やっぱ妬くよね…。 ほぼ確信的に想像がつきながらも、俺は結局、このメンバーとプリクラを撮った。

ともだちにシェアしよう!