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第337話
「翼、今日は楽しんできたようだな」
風呂上がり、髪をわしゃわしゃとタオルで乾かしながら、ソファに座っていた俺は、帰ってきて早々、ブランデーを自分でグラスに注いできた火宮を振り返った。
えーと、メモ帳は…。
風呂に入るのにどこかに置いて…どこだっけ。
フラリと目を彷徨わせた俺をどう思ったのか、火宮がドサッと隣に座ってきて、ニヤリと笑った。
「豊峰の小僧と遊びに出かけて、プリクラとやらを撮ったらしいな」
なんで知っ…て、浜崎か。
護衛という名のスパイがいたんだっけ。
「何やら女子も一緒だったとか?」
ニヤッと笑う火宮に、俺はげっそりと溜息をついた。
だから、それはあくまで友人で、火宮が想像するようなことは何も、って、言えないからメモ帳、メモ帳。
多分、脱衣所だ、と思い出して立ち上がろうとした俺は、火宮にグイッと腕を引かれて、ドサッとソファに沈んだ。
「随分とモテ始めたようだな」
モテ…って。
「声のこともあるし、心配していたが。どうやら杞憂だったようだな。それにしても、おまえの魅力に気づく高校生がいたか。ホイホイ引き寄せられたわけだ」
目が高いが、面白くない、とぶつくさ言う火宮は怒っている様子はなく。
これは…拗ねてる?
思わず、ぷっと、声は出ないけど肩を震わせてしまったら、火宮がますます面白くなさそうにむっとした。
「おまえは。人が学校生活を心配してやっているそばで。まぁ無事におまえが望む友人ができたのはめでたいがな。あまり俺を妬かせるな」
チュッ、と頬に押し当てられた唇に、カァッと頬が熱くなる。
俺は、火宮ひと筋だって、分かっているくせに。
「で?そのプリクラとやらを見せろ」
え!
思わずギョッとして火宮を見てしまったら、「何か不都合でも?」と、目を細めた火宮がいた。
いや、別に疚しいことは何もない。
何もないんだけど…人数が人数なだけに、結構密着しちゃってるショットとかあるんだよね。
「翼?」
っ…。
持ってきます!持ってくればいいんでしょ。
微妙に低くなった火宮の声に怯みつつ、俺はパッと火宮から離れて、リビングの隅に置いた鞄を取りに行った。
そうして、今日撮ったプリクラの、半ば無理矢理俺の分だと押し付けられたシートを渡す。
「ほぉ」
いや、何その微妙な反応。
「リカ、ユカ、つーちゃん?」
あー、それ、女子が勝手に落書きしてたやつ。
「くっついて、随分と楽しそうだな」
まぁ、ぶすっとして写真に写る人ってあまりいないよね。
「ふん。まぁいい。だが翼」
はい?
「放課後楽しく遊ぶのは、別に構わないが」
ひょい、とプリクラを返して来ながら、火宮がニヤリと唇の端を吊り上げた。
「勉強の方は大丈夫なんだろうな?」
え?まぁ、多分。
コテンと首を傾げた俺に、火宮の、それはそれは艶やかな微笑みが向いた。
「覚えているとは思うが、中間が近いよな?トップ。取れなかったらどうなるか」
忘れていないよな?って、それは…。
「ん?翼?」
っ、覚えてますっ。
だけどこのタイミングでその嫌な話題って。
妬いてるな、これは完全に。
露骨に文句を言ったりお仕置きを仕掛けてこない辺り、自分でも大人気ないとは思っているんだろうけれど。
でも独占欲は抑えきれないから、そういう意地悪発言に走っているんだろうね。
んもぅ、どんなに仲が良い友達ができたって、俺が好きなのも、一緒にいたいのも、全部の1番は火宮さんなのに。
「ククッ、翼」
妬く必要なんてないんですよ。
言葉の代わりにそっと火宮に口づけたら、ふわりと甘くアルコールの香りがした。
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