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第338話

それからも、豊峰やタクト、他にも何人かの男子や女子たちが俺を気にかけてくれ、俺の学校生活は順調に過ぎていった。 放課後になれば、誰かしらが交代交代で、俺の委員会に付き添ってくれ、クラス内でも、いつの間にか、俺を囲む輪が広がって行っていた。 そんな日々が平穏に流れ、中間テストの結果発表の日が訪れた。 「んー?どした、翼」 個人票を見つめ、自分の席で固まっていた俺に、豊峰が声をかけてきた。 「真っ青い顔をして…。悪かったのか?」 ひょいっ、と俺の個人票を覗き込んできた豊峰の顔が、くしゃりと歪んだ。 「はぁっ?おまっ、2位とか。それでなんで、んな絶望的な顔してんだよっ」 嫌味かっ、と派手に叫んでいる豊峰だけれど…。 だって絶望的なんだもん。2位だよ…終わった。 『俺、完全にオワッタ』 震える文字を書いて見せた俺を、豊峰が変な顔で見てきた。 「そういや、トップがどうとか、前に言ってたけど…」 『うん。どうしてもトップになりたかった』 じゃないとお仕置きが…。 火宮と真鍋から、地獄のようなお仕置きが。 うぅ、と頭を抱えた俺に、ふと隣から、あまりに呑気な声が聞こえてきた。 「あー、なんか、ごめんね?」 え?紫藤くん? 「トップ、もらっちゃった」 ニコリと、陽気に笑っている紫藤が、ペラリと個人票をこちらに向けて見せてくれた。 『あーっ!嘘ぉ…』 「はっ、また和泉が1位か」 ブレねぇな、と笑っている豊峰なんだけど、俺の目は、紫藤の個人票の、総合得点に釘付けだった。 『3点差…』 たったそれだけで、分かれてしまった明暗。 いっそ手が届かないほど突き放されての2位ならば、諦めもつくかというものを。 『悔しすぎ』 後1歩で取れたはずのトップを逃し、俺には恐ろしいお仕置きが待ち受けているというのか。 『帰りたくないー』 ぐしゃぐしゃと、無意味な曲線をメモ帳に書いてはなぞり、書いてはなぞりをしながら、俺はグズグズと席に座っていた。 「あはは。テストの成績が悪くて帰宅拒否とか。現実にいるんだ」 だから、笑い事じゃないんだって。 「トップじゃないと駄目とか、あの人たち、そんなスパルタなん?怖っぇ」 もう、他人事だと思って。 「まぁでも、いつまでも居残っていてもしょうがないよ?」 「んだな。それに翼、お迎え来ちゃうんだろ?どの道逃げられないじゃん」 そうなんだよね。そんなことは重々承知なんだけど。 『あーっ、だからって、素直にノコノコ帰れるかって言ったら、別問題なんだよー』 メモ帳に書き殴った叫びも虚しく、俺にはこの地獄への切符を持って帰宅するという選択肢以外、存在しなかった。

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