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第341話

うふふふ。 手の甲を目の前に掲げて眺め、くるんと手のひらに返してまた眺め、もう一度ひっくり返して、さらに眺める。 手を動かす度に、チラリと視界に入るリングが、嬉しくてたまらない。 にまぁ、っと緩んでしまう頬が一向に元に戻らない。 「ククッ、翼。おい、翼」 え?あ…。 サラダを俺の皿に取り分けてくれながら、火宮がじっと俺のことを見ていた。 あは…。 一部始終を観察されていたのか。 恥ずかしい…。 「クッ、そこまで喜ばれるとは、プレゼントした甲斐があるというものだな」 ククッ、と笑っている火宮も、なんとなく普段よりテンションが高い気がする。 「ほら、翼」 サラダを取り分けてくれた皿が、ずいっと押し出される。 げ。この赤と黄色の物体は…。 「………」 無言で皿を押し返してやる。 「翼の分だぞ。ほら」 「………」 だからいりませんって。 これでもかというほど、わざとらしく盛り付けられたパプリカは、絶対火宮の確信犯だ。 本当、ちょっといい雰囲気かと思えば、すぐこうして意地悪をしてくるんだから。 このどS。意地悪。バカ火宮。 どうせしゃべれない俺は、思う存分、心の中で暴言を吐いてやる。 「ククッ、なんだそれは。仕置きの催促か?」 へ? え?俺、何も言ってない。 「どS、意地悪、バカ火宮、あたりか?本当、おまえはな」 えっ?何この人。 いつの間に超能力なんて身につけたわけ? あまりに内心ドンピシャすぎて、うっかり思考が混乱する。 「ククッ、超能力じゃないぞ。本当、おまえの目は、語りすぎだ」 クックックッ、と身体を折り曲げて喉を鳴らしている火宮は、本当に心底楽しそうで。 あぁ、もう、なんだこれ。 揶揄われているんだけどそうじゃない。 こんなに幸せでいいんだろうか。 ーー火宮さん。 「ん?なんだ」 っ…。声にしていないのに、やっぱり間違えずに分かってくれる。 ーー 一生大事にします。 あなたという、かけがえのない存在を。 「ククッ、それ、ずっとつけていろよ」 学校にも? 小さく首を傾げたら、ニヤリと笑った火宮が頷いた。 「当然、学校でも、風呂でも、だ」 っ…。 与えられる、強い束縛、だけど嫌じゃない。 「もし外したら…心底後悔するまで、きつい仕置きだな」 恋人と揃いのリングを外すときというのは、恋人を裏切るとき…浮気をするときくらいだからな、って…。 ーーしませんよっ! 外すわけない。こんなに大切なもの。 もし外してうっかり失くしでもしたら大変だし。 チュッ、と自分の薬指に唇を寄せたら、火宮の目が、優しく柔らかく弧を描いた。 「いい子だ。では約束したところで、さぁ食べろ。早くしないとメインが来るぞ」 ほら、と押し出されたのは、大量パプリカ入りサラダで。 だからいらないって言ってるから! 本当もう、そこから離れて…。 だけど、この意地悪っぷりが、ほんと火宮だな、って思うから。 なんだかそれが可笑しくて、ホッとして。 じわりと胸の奥から溢れてくる気持ちは、たまらないほどの愛おしさだった。

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