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第363話

そうして、うちのクラスだけ円陣を組むという気合いの入りようで、行われた全員リレー。 リカの発破のおかげかなんなのか。 結果はなんとダントツでぶっちぎりの1位。 大いに盛り上がっているクラスメイトの輪の中に、俺も、豊峰も、いつの間にか紫藤も、いる。 「っ…」 4月の当初じゃ、想像もつかなかった光景だ。 クラスみんなが団結して、豊峰や俺を弾くことなくバトンもちゃんと繋いでくれて。 一緒になって喜んで、遠慮なく揉みくちゃにしてくれる。 「リレー優勝、やったー!この勢いで、総合優勝も取りに行くよー!」 リカの掛け声に、「おー!」なんて盛り上がっているクラスメイトを横目に、なんだかシミジミと、この喜びを噛み締めてしまう。 「翼」 「あ、藍くん」 「やったな」 にかっ、と笑う豊峰の、その目が緩やかに細められて。 「おまえが変えた。おまえが作った今だ」 ふざけた笑いじゃない。ふわりと柔らかく微笑む豊峰の目は、眩しそうにみんなを見ている。 「こんな光景が見られる日が来るなんて思わなかった。こんな世界に入れる日が来るなんて考えられなかった」 「藍くん…」 「翼、ありがとう」 くしゃりと髪を撫でて、トンッと背中を押された俺は、ワイワイ盛り上がっているクラスメイトたちの輪の中に、フラフラと入ってしまう。 「つー!イッエーイ!」 「タクト!」 パァン、と合わされるハイタッチ。 「翼、1人抜いたよな!お手柄ー」 「えへへ、なんとかね」 クシャクシャと、髪を掻き混ぜられて肩を組まれて。 「つーちゃん!やったね!優勝だよ、優勝!」 わーい、とはしゃぎながら、ハグしてくるリカにはドキッとなる。 楽しい。幸せ。とても嬉しいけど…。 これはさすがに、とこっそり窺った、観覧者席の恋人様は。 目を細めて、少しだけ柔らかい空気をして、静かにこちらを眺めていた。 「っ!」 もう…。 ずるいよね。 こんなときにはちゃんと、嫉妬も独占欲も綺麗に隠して、よかったな、なんて、俺の世界を認めてくれちゃうんだから。 っ…。 じわりと滲んだ視界のわけなんて知らない。 「およ?つー、なに?嬉しすぎて泣いてんの?」 「ぶっはー、感激しすぎだから!まだまだ競技はこれからだよー?」 「次は綱引き!これも勝ちに行くかんね!」 うん、うん。 そうだよ。それそれ。 リレー優勝嬉しすぎて。 みんなと一緒にはしゃげて幸せすぎて。 だけど本当のわけは、誰より1番分かってる。 あなたが愛しい。 あなたのことを泣けるほど愛してる。 『だ、い、す、き』 読話が出来ると言った火宮に向けて。 みんなに揉みくちゃにされた輪の中から。にっこり笑って唇を動かした俺に、火宮が「あぁ」と呟いたのが分かった。

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