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第364話

それから、俺の午前の部、最後の出場種目、借り物競走の時間がやってきた。 スタートラインの後ろ、4番目の列に並びながら、ドキドキと緊張する心を抑えていた。 うわ…。あれ、どんなお題だよ。 前のレースを見ながら、げっそりと溜息が出そうになる。 なにせこの学校の借り物競争は、借り物、借り人から、ゴール方法までが、引いた紙に指示されているらしいのだ。 「ふみかー!好きだー!」 1人の女子を応援席から連れて行った男子の走者が、ゴールで絶叫している。 『おーっと、これは、彼女(彼氏)を借りて、想いのたけを叫びながらゴール、というお題!』 放送席から流れる解説に、盛り上がる会場。 エグ…。 当たらなくて良かったー、とホッとしているのは、多分俺だけじゃない。 隣でレースを待つ男子や、その後ろの女子の顔が引きつっているのが見える。 『2着は、借り物、校長!おんぶしてゴール!クリアですっ』 ゴールの判定係が丸のついたプラカードを上げたのが見えた。 3着、4着と、借り物、借り人を持った生徒がゴールに駆け込む。 中にはお題をこなせずに、ウロウロと彷徨った挙句にリタイアペナルティを受けている生徒もいる。 得点にならない上に、自分史上最大の恥ずかしい話暴露とか…可哀想。 もしかしたら我が身かもしれないと思うと笑えない。 けれど観客たちは無責任に盛り上がりまくっている。 「次、第4レース、前に」 っ…。 とうとうやって来てしまった俺の番。 スタートラインにつきながら、とりあえず天に祈ってみる。 楽で困らないお題でありますように! 見れば隣でも、両手を組み合わせて空を仰いでいる生徒がいた。 「位置について」 ドクンッ、と鼓動が跳ねる。 「よーい」 つーちゃん頑張れー!と叫ぶリカの声が、やけに通る声となって耳に届いてくる。 パァンッ! 銃声と同時に蹴った地面が、ザリッと音を立てた。 こうなったら自棄だ。 どうせならクラスの得点に貢献してやる。 一目散に向かったお題の入ったボックスの前で、キキッとブレーキをかけた俺は、ズボッと箱に手を入れた。 「っ…」 祈るように引き出した、1枚の紙切れを、ガバッと開く。 そこには。 ーー会場で1番可愛い(格好いい)人。 お姫様抱っこをして(されて)ゴール。 「う…」 男子向けには、当然かっこ前の指示バージョン。 女子が引いたらかっこ内ということだろうけれど…。 暗黙の了解というだけで、性別の指示は特にない。 どちらの指示をこなしてもアウトではない、と、多分この指示書を見たら言い掛かりをつけてくるだろう人が、1人。 どうしてこの内容で俺を選ばなかった、と詰め寄ってくるだろう恋人様が、目の前にチラついて…。 大人しく火宮を連れて、お姫様抱っこされてゴールするか。 人目と常識を優先して、誰か女子を抱き上げてゴールに向かうか。 指示の紙をぐしゃりと握り締めながら、ギリギリと悩んで俺が出した答えは…。

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