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第369話

それから、まったく食べた気がしない昼食が終わり、午後の部が始まる時間となった。 「はぁぁっ、戻りたくないー」 タープ内でぐずる俺を、火宮が笑う。 「ちゃんと午後の競技も頑張ったら、これは取ってやる」 「っ…」 スルッとハーフパンツのお尻を撫でられ、ビクンッと大袈裟に飛び上がってしまう。 「い、ま、取って下さい…」 こんなモノを入れたまま、まともに競技を頑張れる気がしない。 「だから駄目だと言っているだろう?仕置きなんだ。せいぜい自分がやらかしたことを反省しながら、その罪でも噛み締めていろ」 ニヤリ、と笑う火宮は本当に意地悪で。 「うぅ…」 どう願ったところで、許す気がないらしい火宮には、これ以上縋っても無駄だろう。 諦めの境地に達した俺は、ダラダラと自分の応援席に戻った。 「っ、ぅ…」 軽く浅く、なるべくナカの玩具を刺激しないように、応援席に座る。 ナカに入っているという状態だけでは、さすがに感じることもないのは救いだ。 気にしない。気にするな、俺。 忘れろ。忘れろ。 必死でローターのことを意識の外に追いやり、これでもかというほど真剣に、他の生徒がやっている競技を見つめる。 「翼?」 「………」 「おい、翼」 「へっ?」 突然、ポン、と隣の席の豊峰に肩を叩かれ、俺はびっくりしすぎて飛び上がった。 「大丈夫か?」 「えっ?え?」 何が?っていうか、まさか。 俺がお尻にあんなモノを入れていることが、バレたんだろうか。 タラリと背中を冷たい汗が伝う。 「いや、やけに鬼気迫った顔をして、ムカデ競走なんて見ているから」 やりたかったのか?と首を傾げている豊峰は、どうやら全然違う方向に俺を心配してくれていたようで。 「はぁーっ。よかった」 「は?」 「ううん、なんでもない。ムカデ競走、面白いなーって。別に出たくはないけど」 へらりと笑った顔は成功していただろうか。 誤魔化すように話を合わせた俺の目は、勝手にスーッと逸れていく。 「そうか?…なぁ、なんか顔、赤くね?」 「えっ?え、そうかな?」 頼むからもうあまり突っ込まないでー。 必死で祈る内心も虚しく、豊峰がひょいっと悪気なくペットボトルを差し出してくる。 「ちゃんと水分摂ってるか?飲む?」 「や。い、いらないっ」 ぐ、と押し返してしまったペットボトルが、豊峰との間にベシャンと落ちる。 「ッ…」 「あっ、ごめっ…」 慌ててそれを拾おうと、手を伸ばした、俺は。 「ひっ、や、ぁぁ…」 やばっ…。 不意の動きにナカの玩具の位置が変わり、すっかり教え込まれたイイところを掠めてしまった。 「翼っ?!」 ハッ、と口を押さえて、ペタリと地面に崩れ落ちてしまった俺を、豊峰が心配そうに見下ろしてくる。 どうしよう、どうしよう、変な声出た…。 「っ、なんでもないっ、本当、大丈夫。気にしないで。あっ、これ、ごめん」 パパッと口数多く叫びながら、俺は急いでペットボトルを拾い上げて豊峰に渡す。 カァッと赤くなってしまっているだろう頬は、嫌というほど自覚していた。 バレたかな…。 泣きそうになりながら、俯いたままの顔が上げられない。 地面に座り込んだままでいたら、豊峰が心配そう側にしゃがみ込んできた。 「翼、調子悪い?」 「えっ…」 「やっぱ顔赤いし、急にフラついて座り込むし。熱中症とかじゃね?救護テント行く?」 ぎゅっ、と眉を寄せる豊峰は、本当にただの体調不良を心配してくれているようで。 そっか、普通は思わないよね。 まさか体育祭の最中に、ローターを入れているから挙動不審だ、なんて変態的なこと。 「バカ火宮…」 思わずボソッと呟いてしまった声は、幸い豊峰には届かなかった。 「なぁ翼」 「あ、うん、いや、大丈夫」 「そうか?」 そろそろと立ち上がりながら、席に戻る俺を、豊峰はまだ心配そうに見ている。 「うん、ほら、あれかなー。お昼、ちょっと食べすぎちゃって。満腹すぎて少し苦しいから、それで」 無理があるかな?と思いつつ、他にいい言い訳も思いつかずにへらりと笑った俺に、豊峰が納得したように頷いた。 「なぁんだ、食べ過ぎかー。まぁ、翼ンとこの弁当、凄そうだもんな。また和牛とか?」 前に真鍋に持たされた弁当から推測すれば、体育祭、なんてイベントごとの弁当がいかに豪華かは簡単に想像できるのだろう。 「あはは、さすがにステーキはなかったけど、多分伊勢エビとか、高そうな蟹とか肉とか入ってた」 「うげ。さすがー。それは食い過ぎるわな」 羨ましいぜ、と笑う豊峰に、苦笑が浮かぶ。 1度気づいた快感は、じわじわと俺の身体を追い詰めて、意図しないところで、勝手に蠢動を始めた内壁が、ローターをイイところに運ぼうとする。 「っ…」 「翼?」 「ううん、大丈夫。それよりそろそろ綱引きだよね?」 「あぁ、そっかー。次の次だな。集合場所行くか」 たりぃな、と言いながらも、うーんと伸びをしてストレッチを始める豊峰は、やる気満々だ。 「ま、ここまで来たら、マジで優勝してやろう、とか思うしな」 「うん…」 頑張ろうぜ、と親指を立ててくる豊峰に、俺は曖昧に頷いた。

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