376 / 719

第376話

そうして、打ち上げに終わりまで参加した俺が、盛り上がった気分のまま、帰宅した室内で。 「ッ…ぐ、う、申し訳ありませんっ、申し訳…」 ドガッと火宮に蹴り飛ばされて床に蹲った浜崎が、土下座のように頭を床に擦り付けていた。 「ちょっ、火宮さんっ?!」 火宮の背中越しに見える手酷い光景に、身体が震える。 一緒に部屋まで上がってきた真鍋は、これを見て、なんで止めに入らないのだ。 「っ…」 また一歩、火宮の足が浜崎に近づき、その腹を横っ腹からガツッと蹴りつけた。 「うぐぁっ、すみませんっ、会長ッ。本当に申し訳っ…」 「なんのためにおまえを翼につけていると思っている」 ズシン、と物理的な重力さえ感じる、火宮の低い声だった。 「それをみすみす、翼がトイレに入ったのを見逃した挙句、怪しい男に接触させただと?」 「ッ、申し訳ありませんっ…」 「ナメてるのか」 ギロッと浜崎を見下ろした火宮の視線は、それだけで人を殺せそうなほど鋭い。 「ッ…」 ゴツ、と額を床に押し付けた浜崎が、ぐっと黙り込む。 どう、しよ…。 ここで俺が庇ったら、浜崎の立場はもっと悪くなるだろうし。 火宮の世界のやり方に、俺が横から口出しするわけにもいかない。 オロオロと戸惑った俺は、ふらりと視線を彷徨わせ、それがたまたま真鍋の目と合わさった。 っ…なんとかして下さい。 願うように真鍋を見つめる。 あなたが最後の頼みの綱だ、と見つめる視線の先で、ふぅっ、と息を吐いた真鍋が、スッと1歩動いた。 「会長」 「なんだ」 「後は私の方から、きっちり言い聞かせておきます」 「ふん」 冷たく鼻を鳴らした火宮が、ギロリと真鍋に視線を移す。 「今回の浜崎の失態の一因は、私にもないとは言い切れませんので」 「ハッ、おまえがたまたま、翼が手洗いに立ったタイミングで、浜崎に電話をかけたことを言っているのか」 「そうですね。それが、浜崎が護衛対象から目を離していい理由にはなりませんが、私が、後ろがうるさい、と文句を呟いてしまったことで、浜崎が気を回したせいでもありますので」 スッと頭を下げる真鍋の言葉に、火宮がハッと鼻を鳴らした。 「おまえが庇うか」 冷たい火宮の声を受けて、真鍋がチラリと俺を見た。 「クッ、いいだろう。後はおまえに任せてやる。きっちり教育し直しておけ」 「はい」 「浜崎は当分、翼の世話役から外す。護衛もだ」 「かしこまりました」 ふっ、と火宮のピリピリとしていたオーラが和らいで、俺もようやくホッと息がつけた。

ともだちにシェアしよう!