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昔のオレは知らなかったはず
前の章を飛ばした方へ
簡単あらすじ
主人公は害獣を退治しようとして、強酸を浴びてしまいました。
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サファテの手で貯水池に投げ込まれて、泡とともに沈む。
水の中から空を見上げた。
ゆらりと揺らぐ水面と差し込む光。
懐かしい。
割と切羽詰まった状況だというのに、ふいに懐かしいだとか、変な話だけど。
子どものころ、夏休みには母方の田舎に行った。
山の中の辺鄙なところで、その辺の子どもたちの夏の遊びといったら、川で泳ぐことくらい。
橋の上から飛び込んでみた景色が、こんな感じだった。
あれ以来の風景。
懐かしくてきれいで、いいものを見た。
ぶくりと水の中で大きく息を吐いて、オレは目を閉じる。
なんて。
目を閉じて沈んだはずなのに、直射日光がまぶしくて、目を開けた。
死んだと思ったけど、死んでなかった。
一緒にサファテがいて、オレがそう簡単に死んじゃうわけがないんだけどさ。
遠くでいろんな音がする。
騎士団の隊長が指示を出す声と、それに応える声と、作業している音。
文化祭の片付けを思い出した。
オレは日当りのいい岩場の上に寝かされていて、大きな布で巻かれて、その懐かしい音を聞くともなく聞いていた。
「ぉお?!」
寝返りを打とうとして、自分の状況に気が付いた。
おぼれて助けられて、服をはがれて治療されたらしくて、布の下は全裸ですが、何か問題でも?
まごうことなく、マッパっすよ。
っていうか、問題ありありじゃん、動けないじゃねえかよ。
まあ、ひりひりとする首の後ろから肩口で、軽く酸で焼けたんだろうなってことはわかるから、動けたところで手伝わせてもらえるかどうか謎だけど。
直射日光さんさんと降り注ぐ中なので、横になっていたところでこれ以上寝ることもできないから、起き上がって膝を抱えた。
ぼーっと、遠くで作業してる人たちに目を向ける。
ああ、そういえば家族といったキャンプで、荷物番させられた時もこんな感じだったな、と思い出した。
子どものころ、年に一度夏休みに家族で出かけるキャンプで、定番だったのはスイカ割り。
スイカ割り楽しかったな、と自分の手を見る。
いい感じに竹刀が当たると、たいして力を入れてないのにきれいにスイカが割れるんだよな。
あれが手応えってもんだと知ったのは、ここにきてからで、逆に言えば、手応えなんてものが本当にあるなんて、オレはスイカ割りくらいでしか知らなかった。
今ではすっかりなじみの感覚になりつつある。
薪を割るとき、畑仕事をするとき、今回みたいに魔獣を退治したり、食べるために家畜を屠るとき。
当たり前のように、自分で感じている。
知らなかったはずの手応えってやつを、当たり前だと思ってしまっている違和感。
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