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昔のオレは知らなかったはず

前の章を飛ばした方へ 簡単あらすじ 主人公は害獣を退治しようとして、強酸を浴びてしまいました。 +++++  サファテの手で貯水池に投げ込まれて、泡とともに沈む。  水の中から空を見上げた。  ゆらりと揺らぐ水面と差し込む光。  懐かしい。  割と切羽詰まった状況だというのに、ふいに懐かしいだとか、変な話だけど。  子どものころ、夏休みには母方の田舎に行った。  山の中の辺鄙なところで、その辺の子どもたちの夏の遊びといったら、川で泳ぐことくらい。  橋の上から飛び込んでみた景色が、こんな感じだった。  あれ以来の風景。  懐かしくてきれいで、いいものを見た。  ぶくりと水の中で大きく息を吐いて、オレは目を閉じる。  なんて。  目を閉じて沈んだはずなのに、直射日光がまぶしくて、目を開けた。  死んだと思ったけど、死んでなかった。  一緒にサファテがいて、オレがそう簡単に死んじゃうわけがないんだけどさ。  遠くでいろんな音がする。  騎士団の隊長が指示を出す声と、それに応える声と、作業している音。  文化祭の片付けを思い出した。  オレは日当りのいい岩場の上に寝かされていて、大きな布で巻かれて、その懐かしい音を聞くともなく聞いていた。 「ぉお?!」  寝返りを打とうとして、自分の状況に気が付いた。  おぼれて助けられて、服をはがれて治療されたらしくて、布の下は全裸ですが、何か問題でも?  まごうことなく、マッパっすよ。  っていうか、問題ありありじゃん、動けないじゃねえかよ。  まあ、ひりひりとする首の後ろから肩口で、軽く酸で焼けたんだろうなってことはわかるから、動けたところで手伝わせてもらえるかどうか謎だけど。  直射日光さんさんと降り注ぐ中なので、横になっていたところでこれ以上寝ることもできないから、起き上がって膝を抱えた。  ぼーっと、遠くで作業してる人たちに目を向ける。  ああ、そういえば家族といったキャンプで、荷物番させられた時もこんな感じだったな、と思い出した。  子どものころ、年に一度夏休みに家族で出かけるキャンプで、定番だったのはスイカ割り。  スイカ割り楽しかったな、と自分の手を見る。  いい感じに竹刀が当たると、たいして力を入れてないのにきれいにスイカが割れるんだよな。  あれが手応えってもんだと知ったのは、ここにきてからで、逆に言えば、手応えなんてものが本当にあるなんて、オレはスイカ割りくらいでしか知らなかった。  今ではすっかりなじみの感覚になりつつある。  薪を割るとき、畑仕事をするとき、今回みたいに魔獣を退治したり、食べるために家畜を屠るとき。  当たり前のように、自分で感じている。  知らなかったはずの手応えってやつを、当たり前だと思ってしまっている違和感。

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